抛球乐 - 刘禹锡
抛球楽(ほうきゅうらく) - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
抛球乐 - 刘禹锡
抛球楽(ほうきゅうらく) - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
「抛球楽(ほうきゅうらく)」は、唐代詩人・劉禹錫(りゅう うしゃく)が、宮中や貴族の邸で行われる毬(まり)遊びのひと幕を描いたと伝えられる逸曲(いっきょく)です。唐代の宮廷・貴顕の女性たちが優美な姿で玉の毬を投げ合い、その様子を音楽や詩歌とともに楽しんだ風習があり、そうした華やかな場面を端的に四句に凝縮しています。
冒頭の「锦里春深戏绿波」では、錦里という華やかな場所の春が深まる中、翠色がかった庭や池の水面が“緑波”として表現され、そこを遊ぶ人々の活気と優雅さが暗示されます。続く「珠毬飞处散金梭」は、珠のように輝く毬が飛び交う様子が、金の梭(織機のシャトル)が散るかのようにきらびやかに描かれ、まるで目を奪う光の乱舞を想起させるでしょう。
後半の「玉腕纤纤轻一掷」では、細く美しい腕の動きが象徴され、見る者が思わず息をのむような優美さが強調されます。そして「惊鸿却在眼前过」という結びの句によって、その投げる動作や一瞬の美しさが“驚くほど優美な鳥が目の前をかすめていく”光景になぞらえられ、儚さと鮮烈な美の印象を与えます。こうした比喩表現は、唐代の文人が得意としたものであり、女性の優雅な姿を鳥の飛翔に重ねる発想が、読む者の想像をかき立てるのです。
劉禹錫は、左遷など波乱に富んだ官僚生活を送る一方で、貴族・文人たちが集う雅宴や遊興の場面を数多く詩に取り入れました。「抛球楽」もまた、その華やかな空気や貴顕の娯楽を活写しており、唐代における貴族社会の風俗や美意識を知る上でも興味深い作品といえます。さらに、その背後には、儚くもきらびやかな瞬間を捉えたいという詩人自身の美学が感じられ、娯楽詩の範疇を超えた深みをも含んでいます。
全体として「抛球楽」は、春の宮中や貴閑な邸宅のにぎわいを視覚的かつ軽快に描き出し、短い中に余韻豊かな叙情を宿しています。投げられた毬が空を描く瞬間に凝縮された煌びやかな美しさと、それがすぐに消えてしまう一瞬の儚さ――そうした対比が、唐詩特有の洗練と感性を存分に感じさせる佳作といえるでしょう。
・宮中や貴族邸での毬遊びの華やぎと、一瞬の儚さを対照的に描く
・細腕や飛翔する鳥といった比喩によって、美的情景を強く印象付ける
・唐代貴族の遊興文化をうかがい知る資料的価値を持つ
・春の深まる気配と華やかな人々の姿が融合し、詩の情景をいっそう盛り上げる
・限られた文字数で、多層的な美意識や情感を余韻として残す唐詩の妙技が詰まっている