[古典名詩] ララ - この詩の概要

Lara

Lara - Lord Byron

ララ - ジョージ・ゴードン・バイロン(ロード・バイロン)

神秘の帰還者が背負う過去と秘めた孤独の影

Lara came, but not alone—
ララは戻った、しかし独りではなかった――
The years that had flown
かつて過ぎ去った年月が
Seemed to add mystery to his tone;
その声にさらなる神秘を帯びさせたかのように、
His mien, his features, all betrayed
その物腰も、その顔つきも、すべてが示していた、
Some secret sorrow, undismayed
ある隠された哀しみがあるのだと、しかしそれを恐れぬ強さも見せていた。
Men gazed—and some with gladness spoke,
人々は彼を見つめ――ある者は喜びの言葉をかけ、
Others with wonder, not unbroke
またある者は驚きを隠せぬまま、
By fear, and something of distrust;
そこには恐れやわずかな疑念さえ混ざっていた;
He seemed as one returned from dust,
まるで塵から蘇った亡者にも見えたのだ、
And bound again to mortal ties,
再び人間世界へと繋ぎ止められたかのように、
Yet bearing death within his eyes.
けれどその瞳には死の影を宿していた。
His silent brow was all unbent,
彼の静かなる額には、いまだ皺が寄らず、
No sign of kindly passion lent;
優しげな感情を示す兆しもなく、
Though once he smiled, it seemed to say,
たまに微笑が浮かんでも、それはまるでこう告げるようだった、
“I pity feelings cast away.”
「捨て去られた感情など憐れむべきものだ」と。
And now around him darkness spread,
そして、今、彼のまわりには闇が広がり、
More deep than night on midnight shed;
真夜中をさらに暗く染めるかのごとく重い、
Or though, in glimpses, memory’s ray
あるいは、断片的に思い出の光が射しこみ、
Recalled some spirit of the day,
かつての日の面影を思い起こさせはするが、
Still shadowy grew that lonely man,
それでも彼は陰に溶けこむような孤独を深め、
And all shrank back from what he ran.
人々は彼が何を抱えているのかを知りえず、彼から距離を置いたのだ。

「Lara(ララ)」は、ジョージ・ゴードン・バイロンが1814年に発表した長めの物語詩です。同年に出版された『The Corsair(海賊)』の後続作とも密接に関連し、実質的には二作をまとめて一つの物語世界と見ることもできます。物語は、タイトルキャラクターであるララ(Lara)が謎めいた過去を背負って帰還するところから始まります。周囲の人々は、彼がかつての自分なのかどうか、またどのような旅をしてきたのかを知りません。

ララの内面には深い陰影があり、彼が何を経験して戻ってきたのかは作中で明示的には語られません。その曖昧さゆえに、物語全体にミステリアスな雰囲気が漂い、読者はララの過去にまつわる様々な推測を膨らませることになります。さらに、到着したララは周囲との関わりを避けるように振る舞い、まるで彼にしか分からない秘密や苦悩を抱えているかのように描かれます。

やがて彼を巡る対立や陰謀が浮上し、ララはその中心に位置しているかのような不穏な空気が生まれます。特に物語の後半では、ララの正体や真の目的が明らかになるのかならないのかが焦点となり、バイロン特有の“バイロニック・ヒーロー像”が色濃く表現されます。孤独と秘密、そして高貴な矜持を持ちながらも破滅を招き寄せてしまうような主人公像は、まさにロマン派を代表する典型的なヒーローです。

加えて本作では、詩的な叙事と心理ドラマが巧みに交錯します。景色や自然の描写を背景に、ララの内面的苦悩や周囲の疑惑、不信感が高まっていき、その緊張感を通して読者はララの運命を追いかけることになるのです。結果的に、「Lara」はバイロンが創り上げた“寡黙で謎に満ち、力強いが悲劇的結末を孕む男”というバイロニック・ヒーロー像を示す代表作の一つとして、当時の読者を強く魅了しました。

要点

・バイロンが『The Corsair』の後に発表した物語詩で、謎の人物ララが帰郷し、周囲を巻き込みながら不穏な事件を展開する。
・主人公ララは典型的な“バイロニック・ヒーロー”として描かれ、秘密や罪を抱えつつ高貴な雰囲気を纏い、物語にミステリーと悲劇性をもたらす。
・物語を通じて、ララの過去や運命、そして周囲との葛藤がロマン派的な自然描写や詩的言語によって彩られ、読者に“真の正体”を問いかける構成が、作品の魅力を高めている。

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