[古典名詩] 山居秋暝(さんきょしゅうめい) - 幽玄な秋の夕暮れを描いた自然詩の要点

Autumn Evening in the Mountains

Autumn Evening in the Mountains - Wang Wei

/山居秋暝 - 王维/

雨上がりの山の夕べに広がる静寂の詩情

空山新雨後,
雨上がりの静かな山には、
After fresh rain in the empty mountains,
天気晚來秋。
夕べの空気に秋の気配が漂う。
Evening air arrives, carrying an autumnal chill.
明月松間照,
松の間に明るい月が照らし、
A bright moon gleams among the pines,
清泉石上流。
澄んだ泉が石の上を流れ落ちる。
Pure spring water cascades over stones.
竹喧歸浣女,
竹林がにぎわうのは洗濯を終えた娘たちが帰る足音、
The bamboo rustles with the footsteps of maidens returning from washing clothes,
蓮動下漁舟。
揺れる蓮の間を漁船が下っていく。
Lotus leaves sway as a fishing boat glides downstream.
隨意春芳歇,
思うままに春の華やかさは消え去り、
Freely the spring’s lushness fades away,
王孫自可留。
貴人であっても、ここに留まるのもまたよいのだ。
Yet we may linger here in peace, even those of noble birth.

王維(おうい)の『山居秋暝(さんきょしゅうめい)』は、山間に暮らすひとときの風景を端的に描きながら、秋の気配を繊細にとらえた代表的な五言律詩です。雨上がりの山という静謐な舞台を背景に、月や泉、竹林、蓮といった自然の要素が次々と登場し、読み手に清らかなイメージを呼び起こします。詩の序盤で強調される「新雨後」という語は、この詩の空気感を一気に一変させる決定的な要素で、空気の澄んだ山中にしっとりとした秋の夕暮れを深く刻み込みます。

また、王維が得意とした「詩中に画あり、画中に詩あり」という美学は、本作の随所に見て取れます。松の間にさし込む月光や、石を伝う泉の音、竹林や蓮の描写はいずれも静と動の対比によって、まるで一幅の山水画のように緻密な構図を作り出しています。特に「竹喧」と「蓮動」の表現は、それぞれ音と視覚に訴えるものであり、豊かな感覚の広がりを与えてくれます。

結句の「随意春芳歇,王孫自可留」は、単に春が過ぎ去るという物理的な描写にとどまらず、「俗世の華やかさが消え去っても、ここにとどまり自然に身を委ねるのもいいではないか」という、作者の内面的な境地が示唆される部分です。王維は官僚として仕えた一方で、仏教や山林暮らしへの強い関心を持ち、しばしば出世や名利にとらわれない隠逸的な理想を詩の中に表現しました。

従って、この詩を読むとき、単に季節の移ろいを描写しているだけでなく、自然の中に身を置く人間が得る心の清浄さや解放感、あるいは紅塵(俗世)から離れた安らぎを謳歌する思いが感じ取れます。唐代の詩人の中でも、特に王維は山水田園詩の分野に大きな足跡を残した人物であり、『山居秋暝』はそのエッセンスをよく体現した名篇として広く愛誦されてきました。

要点

• 雨上がりの清らかさと秋の訪れを重ねた景の美しさ
• 竹や蓮の動きと川の音を配し、動と静を巧みに対比
• 最終句に隠逸思想が込められ、俗世の喧噪から離れた静寂を象徴
• 王維の“詩中有画”の特色が存分に発揮された山水田園詩の代表作

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
利用可能な言語