临安春雨初霁 - 陆游
臨安春雨初霽(りんあん しゅんう しょさい) - 陸游(りくゆう)
临安春雨初霁 - 陆游
臨安春雨初霽(りんあん しゅんう しょさい) - 陸游(りくゆう)
「臨安春雨初霽」は、南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)が、当時の首都・臨安(現在の杭州市)に滞在していた折に詠んだと伝わる七言律詩です。タイトルにあるとおり、春の雨が上がった直後の都の情景を背景に、詩人の旅愁や故郷への思い、さらには世の中への淡い諦観といった心情が織り込まれています。
冒頭の「世味年来薄似纱」では、年を重ねるごとに世の中がどこか味気なく、また表面的に感じられる様子を「薄い紗」にたとえています。これに続く「谁令骑马客京华?」は、華やかとされる臨安の地に自分が招かれ、いわば客人として馬でやってきたことへの、やや自嘲まじりの問いかけとして読むことができます。
中盤では、「小楼一夜听春雨」「深巷明朝卖杏花」といった具体的な情景を描写し、しとしとと降り続く夜の雨と、明け方には杏の花を売る声が響く都の生々しい空気感を対比させています。続く二句「矮纸斜行闲作草」「晴窗细乳戏分茶」は、雨の止んだ後の静穏な時間帯に、紙に書き付けをしながら、点てた茶を戯れに分かち合う余裕ある暮らしぶりを表しており、一見すると穏やかな風情が感じられます。
しかし最終の二句「素衣莫起风尘叹,犹及清明可到家」では、身にまとう衣が旅の塵をかぶってしまうことへの嘆きをできるだけ抑え、近い将来には清明節までには故郷に帰れると信じている様子が伝わります。これは同時に、長期の旅における疲労や世事の変転にさらされた詩人の内心が、故郷への帰りを心の支えにしていることを暗示しています。
南宋という国のなかで、陸游は常に北方を取り戻すことを願いつつも、実際には臨安の地に留まる場面が多かったといわれます。本作からは、その複雑な境遇が作り出す「都の華やかさ」と「故郷を想う寂しさ」が微妙に入り混じった空気を感じることができます。政治的には混迷する時代背景もあった一方、作品としては淡々とした情景描写と繊細な心情表現が特徴であり、陸游の多面的な詩風を知るうえでも興味深い一篇です。
そうした背景を踏まえると、「世の中を薄い紗のように感じながらも、春雨が上がった都の朝を楽しみ、近い将来には家へ帰れると希望を抱く」という流れには、作者ならではの人生観と時代への諦観、そして微かな安堵が同時に映し出されていると言えるでしょう。
・春の雨上がりの都、臨安の姿と、故郷を想う気持ちが繊細に交錯する
・表面的に感じられる世の移ろいと、ささやかな日常の風情を対比的に描写
・旅先で味わう寂寥感を支えるのは、故郷へ戻るという希望であることが詩句からうかがえる