望洞庭 - 刘禹锡
望洞庭(ぼう どうてい) - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
望洞庭 - 刘禹锡
望洞庭(ぼう どうてい) - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
「望洞庭(ぼう どうてい)」は、唐代の詩人・劉禹錫(りゅう うしゃく)が湖南省北部に位置する洞庭湖を眺め、その美しい秋の夜の光景を描いた詩です。四句の中に秋と月、そして広大な湖の静けさが端的に切り取られ、自然の澄んだ空気感や深い趣が漂います。
第一句「湖光秋月两相和」では、秋の月と湖面が互いに響き合っているさまを表現し、静寂の中に溶け合う光と月影の美しさを暗示します。続く「潭面无风镜未磨」においては、風さえ吹かない潭(深く静かな水面)がまるで磨かれていない鏡のように澄み渡っていると描かれ、湖がまったく波立たないほど穏やかな情景が伝わってきます。
後半の「遥望洞庭山水色,白银盘里一青螺。」は、遠くに見える洞庭湖の山並みを含めた景観を、白銀の盤に置かれた青い螺(にょろにょろとした巻貝)のようだと比喩しています。山と水が渾然一体となりながら、まるで小さな貝殻が銀の皿に載っているかのような静謐な光景を想起させるのです。中国詩において、このように遠景をある物に喩える手法はよく使われますが、この比喩の妙によって詩全体が印象的に結ばれ、読者の心に鮮やかなイメージを残します。
劉禹錫は左遷など波乱のある官僚生活を送りましたが、その経験や見聞を活かして多様な題材の詩を数多く残しました。本作では政治的背景を排し、純粋に自然の美をたたえることで、安らぎと透明感あふれる世界を作り上げています。秋の夜、湖面に静かに宿る月光とその世界に身を浸したときの感動を、わずか二十字にも満たない文字数で見事に描写している点が、この詩の最大の魅力と言えるでしょう。
・秋の夜の静寂と湖面に映える月の美しさを簡潔に描写
・水面を「未磨の鏡」に喩えることで、澄んだ湖の様子が視覚的に迫る
・洞庭湖とその周囲の山並みを「白銀の盤と青い螺」に比喩した表現が印象的
・余計な背景説明を省き、純粋に自然を愛でる詩想に唐詩の洗練を感じる
・劉禹錫の詩風らしい簡潔でありながら豊かなイメージが、時代を超えて響く