[古典名詩] マゼッパ - この詩の概要

Mazeppa

Mazeppa - Lord Byron

マゼッパ - ジョージ・ゴードン・バイロン(ロード・バイロン)

荒野を駆ける運命の馬が紡ぐ、若き愛と試練の叙事

'Twas after dread Pultowa’s day,
あの恐るべきポルタヴァの戦いの日を経たあと、
When fortune left the royal Swede,
運命がスウェーデン王(カール12世)を見放し、
Around Mazeppa, bade array
マゼッパのまわりにも、運命は巡り来たのだ
His troops, and back to safety speed;
彼の軍勢は集い、身を安泰へ急がしめた。
But he, the favorite at whose side
だが、王にとっての寵臣であったその彼こそ
The monarch often deigned to ride,
君主がしばしば馬を並べてきたその男こそが、
Now torn from off his anxious seat,
いま、落馬するかのごとく、居場所を失ってしまうのだ、
And forced a hostile gloom to greet.
敵意に満ちた暗い運命を迎えねばならなかった。
...On goodly steed, with fetters bound,
立派な馬に乗せられながらも、鎖で縛り付けられ、
Mazeppa's form was backward thrown,
マゼッパは馬の背にあお向けに括りつけられた、
And forth the savage charger bound;
そして荒々しい駿馬は猛然と駆け出したのだ;
Through forests wild and plains unknown
人里離れた森や、見知らぬ大平原を越えて、
He bore the hapless rider on,
その不運な騎手を運んでいく、
Till sense and motion both were gone.
ついには意識も動きも奪われるその時まで。

「Mazeppa(マゼッパ)」は、ロード・バイロンが1819年に発表した叙事詩で、ウクライナ・コサックの指導者であるイヴァン・マゼッパ(Ivan Mazepa)の伝説を題材にしています。バイロンは、この物語をフランスの哲学者ヴォルテール(Voltaire)が著した『シャルル12世史』の中で言及されたマゼッパの逸話に着想を得て、スウェーデン王カール12世(Charles XII)との関係や、マゼッパが若い頃に受けた過酷な処罰を中心に描き出しました。

作中でマゼッパは、若き日々に貴婦人を誘惑した罰として、馬に逆向きに縛り付けられ、ウクライナの荒野を激走させられるという極限の体験を語ります。荒涼とした大地を疾走する馬、次々と移り変わる自然の風景――それはバイロン特有のロマン派的想像力をかき立て、読者に壮絶なドラマを体感させると同時に、人間の意志や運命についての瞑想を誘う構成になっています。

さらに、物語の枠としては、大北方戦争(北方戦争)でスウェーデンが敗北を喫した“ポルタヴァの戦い”を背景に、カール12世とマゼッパが撤退を図るエピソードの中で、マゼッパが王に自らの若き日々を回想するかたちで描かれます。バイロンは、圧倒的な自然の力や歴史の大きな波に翻弄されながらも、自由な精神と不屈の意志を貫くマゼッパ像を通じて、ロマン派の英雄観を鮮明に示していると言えます。

要点

・若きマゼッパが不倫の罰として馬に縛り付けられ、ウクライナの大平原を疾走する伝説を、ロマン派特有のスケール感で叙事詩化。
・スウェーデン王カール12世の敗走という歴史的事件を背景に、人間が運命に挑む姿と自然の壮大さを対比し、バイロン自身の“反逆的精神”が重ね合わされる。
・荒涼たる大地を駆け抜ける“馬と人間”のイメージが、激しいドラマを創出するだけでなく、読者に“自由や意志の尊厳”というロマン派的テーマを強く訴えかける作品。

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