[古典名詩] 鳥鳴澗(ちょうめいかん) - 夜闇に漂う花の香と、山鳥の声が生む幽遠の美

Birdsong Brook

Birdsong Brook - Wang Wei

/鸟鸣涧 - 王维/

夜の静寂の山中で月光に驚く鳥の声を聴く幽玄詩

人閑桂花落,
人影まばらな中、桂花(けいか)の花がしとやかに散り、
While people rest in quietude, osmanthus petals softly fall,
夜靜春山空。
夜の静寂は春の山をいっそう虚ろにする。
In the stillness of night, the spring mountain feels all the more void.
月出驚山鳥,
月が昇ると、山の鳥がはっと驚き、
When the moon emerges, it startles the mountain birds,
時鳴春澗中。
時折、春の山間の渓流で、その鳴き声が響く。
Now and then their calls echo through the spring ravine.

王維(おうい)の『鳥鳴澗(ちょうめいかん)』は、夜の春山で感じられる繊細な気配と、静寂を破る鳥の鳴き声を描いた五言絶句です。人影が少なく閑散とした中、桂花(けいか)の花が落ちるようすを起点に、深夜の山の奥行きを写し出します。王維は自然への感受性に優れ、“詩中に画あり、画中に詩あり”と評されるように、一瞬の光景を緻密に切り取りながらも深い余韻を残す表現を得意としました。

本作では「人閑桂花落」「夜静春山空」という二句によって、まず夜の静けさと、かすかに漂う桂花の香りや散る様子が暗示されます。その後、「月出驚山鳥,時鳴春澗中」と続き、月の出に驚いて飛び立つ山鳥の声が、さらに空気の静寂を際立たせる効果を生み出しています。鳥の鳴き声は決して喧噪ではなく、一層深い静かさを引き立てるアクセントとして働き、まるで画面の中に一点の動きを入れるような役割を果たしているのです。

夜の深まる山中には人の営みはほとんど感じられず、四方を満たすのは花の落ちる気配や鳥の声といった小さな動きのみ。しかし、その小ささこそが詩全体に漂う幽遠の情趣をいっそう強くします。王維は仏教や道教的な思想にも通じ、静寂の中にある微かな変化や音を、大きな自然観・宇宙観へと昇華する手法をよく用いました。

この詩からは、読者もまた春山の夜の気配に静かに耳を傾けるような没入感を得られます。わずか四句ながら、視覚・嗅覚・聴覚など複数の感覚が刺激され、自然と人間の境界さえ曖昧になるかのようです。王維が描く“静中に動あり”の世界観を堪能できる名作であり、世俗を離れた隠逸の境地をも感じさせる優れた山水詩といえるでしょう。

要点

• 夜の春山での静寂感を、花落ちる香りと鳥の声で際立たせる
• 月の出に驚く山鳥が、さらに深い静けさを強調する効果を果たす
• 五言絶句の簡潔な中に、仏教・道教的な静謐と壮大な自然観が秘められている
• 王維ならではの“詩中に画あり”の芸術性が堪能できる幽玄な一篇

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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