Willow - Li Shangyin
/柳 - 李商隐/
Willow - Li Shangyin
/柳 - 李商隐/
この詩『柳(りゅう)』は、唐代末期の詩人・李商隠(りしょういん)の作と伝わるものの、一貫した定本は現存せず、さまざまな史料から断片的に引用される句をもとに再構成された可能性があると考えられています。唐代の詩歌において、柳は別離や旅立ちの象徴として頻繁に取り上げられ、「柳を折って別れのしるしにする」「柳が春の訪れや別れの悲しみを暗示する」といったモチーフが定着していました。
今回挙げた四句(推定)では、まず「千絲拂地綠煙輕」という一句で、柳の枝が糸のように地を払うさまや、緑が煙のように淡く漂う景が想像されます。続く「解語何曾寄別情?」では、人間の言葉を話すことのできない柳が、なぜか別れの感情を映し出す存在になっているという逆説的なイメージを提示します。ここで李商隠特有の“物と心情を重ね合わせる”喩が発揮されていると言えます。
三句目・四句目「自是江頭驕客意,年年風雨送歸程。」では、川辺に立つ柳が、しばしば旅人や客の心を映す存在として詠まれてきたことを反映しながら、その“驕客(おごれる客)”は自尊心を抱きつつも年ごとに風雨の中へ帰らざるを得ないという、旅情や人生の無常がほのめかされます。柳の枝が風雨にさらされている様が、そのまま人間の歩む困難な帰郷の道を象徴しているとも読めるでしょう。
また、『柳』という題名自体が「柳を折って別れを惜しむ」という中国古典における慣習に由来し、詩を通して別れの意や愛惜の念を表していると考えられます。李商隠は晦渋かつ艶麗な恋愛詩や、歴史や政治を含意した抒情詩など多彩な作品を残していますが、こうした散逸・不確定の詩も少なくなく、それらを推定・再構成する行為自体が当時の文芸世界の奥深さを感じさせます。
読む者は、柳の垂れ枝が風雨に揺れながら人々の別離を見送る光景と、作者の心中にある哀愁を重ね合わせることで、李商隠特有の叙情性が生み出す余韻を味わうことができるでしょう。
• 柳は中国詩における別離の象徴的モチーフとして登場
• 李商隠が得意とする“物と感情の象徴的重ね合わせ”が鮮明
• 散逸・誤伝の可能性があるため、後世の資料から推定的に再構成された詩
• 別れや帰郷、旅情の哀愁が、柳と風雨のイメージを通じて描かれる