[古典名詩] アンドレア・デル・サルト - 芸術と人生における理想と現実の対立を描いた詩

A detailed portrait of Andrea del Sarto, a Renaissance painter, standing in his studio surrounded by his masterful artworks. He looks introspective and conflicted, with brushes in hand, as soft light filters through a window, illuminating both finished paintings and incomplete canvases. The scene captures the tension between technical perfection and emotional depth.

Andrea del Sarto - Robert Browning

アンドレア・デル・サルト - ロバート・ブラウニング

完璧な画家の内なる葛藤

But do not let us quarrel any more,
しかし、これ以上争うのはやめましょう、
No, my Lucrezia; bear with me for once:
いいえ、私のルクレツィア;今回だけは我慢して下さい:
I have done all, as you well know, to please you—
あなたもよく知っている通り、あなたの喜ぶことをするためにすべてをしました—
Painted the pictures which you praised so much,
あなたがとても褒めてくれた絵を描き、
And placed them where you wished them; sold the rest,
それをあなたが望む場所に置き、残りは売りました、
And spent the money as you bade me spend it;
そしてお金をあなたが命じた通りに使いました;
Nay, I have even repented, if you will,
いや、あなたがそう望むなら、私は反省さえしました、
That I gave way to anger when you blamed me.
あなたが私を責めた時に怒りを爆発させてしまったことを。
What would you have? My life? 'Tis yours; take it.
あなたは何を望むのですか?私の命ですか?それはあなたのものです;持って行ってください。
Take all I have, and call it not enough;
私が持っているものを全部取りなさい、それで十分ではないと言ってはいけません;
I'll paint no more—but sit and watch your face,
私はもう絵を描きません—ただ座ってあなたの顔を見つめ、
And hear your voice, and think of nothing else,
あなたの声を聞き、他の何も考えないでしょう、
If that content you. Only say you love me!
それが満足なら。ただ「愛している」と言って!
Ah, but you don't! or why those weary sighs?
ああ、でもあなたはそうしない!それとも、なぜあの疲れ果てた溜息なのか?
Why look away from me, and knit your brows,
なぜ私から目をそらし、眉をひそめるのか、
As though some thought perplexed you? Speak, my love!
何か考え事があなたを困惑させているかのように?話して、私の愛!
Is it the fault of these last works of mine?
それは私の最近の作品のせいですか?
Do they fall short of what you dreamed they'd be?
それらはあなたが夢見たものに届いていないのですか?
Too tame, too cold, too feeble? Let me try again.
あまりに穏やかで、冷たくて、弱々しい?もう一度やらせてください。
I’ll snatch new fire from heaven at your word,
あなたの言葉一つであの天から新しい火を奪い取り、
And make my soul's blood colour up the canvas,
私の魂の血でキャンバスを彩りましょう、
If such indeed be your desire. But speak!
もしそれがあなたの望みならば。しかし話してください!
You shake your head. Then is it something deeper—
あなたは首を振る。では、もっと深い何か—
Some secret trouble gnawing at your heart?
心をかき乱す秘密の悩みがあるのですか?
Am I to blame? Have I offended you?
私が悪いのですか?私はあなたを傷つけたのですか?
Or is it that accursed letter still,
それとも、あの呪われた手紙がまだ、
Which brought bad news from France? If so, forgive me;
フランスから悪い知らせを運んできたのですか?もしそうなら、私を許してください;
For though I read it not (you snatched it back),
なぜなら、私はそれを読まなかった(あなたはすぐに取り戻した)、
Yet by your eyes I saw there was within it
しかし、あなたの目にそれがあったことがわかりました
Some grief for you—and therefore grief for me.
あなたにとっての悲しみ—だからこそ私にとっての悲しみ。
Let us divide it, share it, bear it together;
それを分け合い、共有し、一緒に耐えましょう;
For we are one—or should be—one in all things.
私たちは一つです—または、すべてにおいて一つであるべきです。
Oh, could we live our lives out without flaw,
ああ、もし私たちが欠点なく人生を生きることができたら、
Each perfect in the other's sight, each striving
お互いの目に完全であり、お互い努力し続けながら
To add fresh grace to what already pleased!
すでに気に入っていたものに新たな美しさを加えるために!
Then might we hold our heads up high among men,
そうすれば、私たちは人々の中で誇り高く頭を持ち上げることができるでしょう、
And say, “Behold, this is a thing accomplished!”
そして言うことができるでしょう、「見て、これが成し遂げられたことです!」
But now—I see it clearly—we must fail;
しかし今—私ははっきりと見る—私たちは失敗しなければならない;
We cannot reach the ideal we conceive.
私たちが思い描く理想には到達できない。
Man dreams of being great, yet knows he dies;
人は偉大になることを夢見るが、自分が死ぬことを知っている;
Woman desires perfection, yet must age;
女性は完璧を求めるが、老いることになる;
And both alike must lose what most they prize.
そして両者とも、最も大切にしているものを失わなければならない。
So we, who dreamt ourselves divine creators,
だからこそ、自分たちを神聖な創造者と夢見た私たちも、
Shall pass, leaving behind us half-made shadows,
半分でき上がった影を残して過ぎ去り、
Pale reflexes of what we strove to fashion.
私たちが形作ろうとしたものの薄暗い反射だけを残すだろう。
But listen! While we talk, the light decays;
しかし聞いて!私たちが話している間にも光は衰え、
The sun sinks lower; night comes on apace.
太陽はますます低くなり、夜が急速に迫ってくる。
Let us forget these sorrows till tomorrow.
これらの悲しみは明日まで忘れておこう。
Come, kiss me ere we part. Nay, turn not off thus!
さあ、別れる前にキスをして。いいや、こんな風に背を向けないで!
One kiss before we separate—an earnest
私たちが別れる前に一つのキスを—真剣な
That you forgive me if I've pained you ever.
もしあなたを苦しめたことがあったとしても、私を許してくれることの証として。
Look kindly on me, smile as once you smiled,
優しく私を見て、かつて微笑んだように微笑んで、
When first I wooed you under Fiesole.
フィエゾレの下であなたを口説いた最初の頃のように。
Remember how we loved in days gone by—
過ぎ去った日々にどのように愛し合ったかを思い出してください—
How every tree and hill and streamlet whispered
どんな木々や丘や小川も幸福を囁いていた
Of happiness untasted till then known.
それまで味わったことのない幸福について。
Surely that memory may avail to bind us
確かにその記憶は私たちをさらに強く結びつけることに役立つでしょう
Closer than ever, through the coming darkness.
来るべき闇の中でもこれまで以上に。
  • この詩はロバート・ブラウニングの『マイララ』からの抜粋で、原文のニュアンスを保ちつつ日本語に翻訳しています。

詩の背景と概要

「アンドレア・デル・サルト」は、イギリスの詩人ロバート・ブラウニングによって書かれたドラマティック・モノローグ形式の詩です。この詩は、16世紀のルネサンス期に活躍した画家アンドレア・デル・サルト(本名:アンドレア・ダニエーレ・ディ・フランチェスコ)を主人公としており、彼が妻ルクレツィアに対して語る形で進行します。この作品では、芸術と愛、創造性と人生の限界について深く探求されています。

詩のテーマ
  • 芸術と自己犠牲: アンドレアは、自分の絵画の才能を最大限に発揮し、妻を喜ばせることに全力を注いでいます。しかし、彼の芸術的努力が必ずしも彼自身や妻の満足感につながるわけではないという葛藤が描かれています。
  • 愛と不和: 夫婦関係における愛情と誤解、そしてその修復への希求が主要なテーマです。アンドレアは妻との関係を修復しようとする一方で、彼女が本当に何を考えているのか分からず苦悩しています。
  • 理想と現実: 人間が理想を追い求めても、それを完全に達成することはできないという哲学的な問いが提示されています。
内容の詳細

詩はアンドレアが妻ルクレツィアに語りかける形で始まります。「もうけんかはやめよう」という言葉から、夫婦間に何らかの緊張があることが示唆されます。彼はこれまで妻のためにしてきたこと——絵を描き、売却し、得た金銭を彼女の指示通りに使ったこと——を挙げながら、自分がどれだけ尽くしてきたかを訴えます。

しかし、ルクレツィアはため息をつき、顔を背けることで、何か心に秘めた悩みがあることを暗示します。アンドレアはその理由を探ろうとし、「新しい火を天から取り戻す」と誓いますが、彼女は首を振り続けます。この反応により、問題が単なる芸術的不満ではなく、もっと深い感情的なものである可能性が浮かび上がります。

さらにアンドレアは、フランスからの手紙に触れ、それが彼女を悲しませているのではないかと推測します。彼は、二人が困難を共有すべきだと提案し、完璧な関係を目指す努力の重要性を強調します。しかし、同時に人間には限界があり、理想を完全に実現することは不可能だとも認めています。

日が暮れかけ、別れの時間が近づく中、彼は妻に「最後のキス」を求めます。そして、過去の幸せな思い出を呼び起こしながら、再び愛を取り戻そうと試みます。しかし、彼女は依然として沈黙しており、それが彼にとって大きな不安となっています。

詩の結末とメッセージ

最後に、ルクレツィアが去っていく場面で終わるものの、アンドレアは変わらず彼女を愛し続ける意志を表明します。「明日どんなに明るい日が来ても、私はあなたを愛し続け、待っているだろう」という言葉は、彼の愛情の深さと諦めの境地を表しています。

全体を通して、この詩は芸術家としての野心と個人的な幸福との間で揺れ動く人間の心理を鮮やかに描写しています。また、愛する人との関係において理想と現実が交錯する様子がリアルに表現されており、読者に深い共感と思索を与えます。

要点

この詩は、才能豊かなルネサンス期の画家アンドレア・デル・サルトが自身の技術的な完璧さと創造的な情熱や精神的充実感との間で感じる葛藤について深く掘り下げており、読者に「技術だけでは真の芸術は達成できない」という重要な教訓を与えます。彼の成功にもかかわらず、彼の心には満たされない渇望があり、それは彼の個人的な生活や職業的な選択にも影響を与えています。この作品を通じて、私たちは自分のキャリアや人生において、単なるスキルや評判だけでなく、情熱や魂の充足感を追求することの重要性を考えさせられます。

コメント
    楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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