[古典名詩] 深夜の霜 - この詩の概要

Frost at Midnight

Frost at Midnight - Samuel Taylor Coleridge

深夜の霜 - サミュエル・テイラー・コールリッジ

夜更けの炉辺に灯る、自然への祈りと子への想い

The Frost performs its secret ministry,
霜は密やかに、その役目を遂行している、
Unhelped by any wind. The owlet’s cry
いかなる風にも頼らずに。梟の鳴き声が
Came loud—and hark, again! loud as before.
大きく響く――ほら、まただ! 先ほどと同じほど大きく。
The inmates of my cottage, all at rest,
我が小屋の住人たちは皆、眠りにつき、
Have left me to that solitude, which suits
私を独りに残した。その孤独は、
Abstruser musings: save that at my side
深い思索にふさわしいもの――ただし私のそばには、
My cradled infant slumbers peacefully.
揺り籠の中で穏やかに眠る我が子がいる。
’Tis calm indeed! so calm, that it disturbs
なんと静かなことだ! その静けさは、かえって心をざわめかすほど、
And vexes meditation with its strange
瞑想を奇妙な感覚で揺さぶる、
And extreme silentness. Sea, hill, and wood,
極度の静寂。海、丘、森でさえ、
This populous village! Sea, and hill, and wood,
この人の住む村も! 海、丘、森が、
With all the numberless goings-on of life,
無数の生命の営みごと、
Inaudible as dreams!
夢のように音を失っているのだ!
The thin blue flame
かすかな青い炎が
Lies on my low-burnt fire, and quivers not;
くすぶる炉の上に漂い、かすかに揺れるでもない;
Only that film, which fluttered on the grate,
ただ、炉の格子にまとわりついていた薄い膜が
Still flutters there, the sole unquiet thing.
まだはためいている、それだけが落ち着かない存在だ。
Dear Babe, that sleepest cradled by my side,
愛しき我が子よ、私のそばの揺り籠で眠るお前は、
Whose gentle breathings, heard in this deep calm,
この深い静寂のなか、微かな呼吸を聞かせてくれる、
Fill up the interspersed vacancies
その息づかいが、間を満たし、
And momentary pauses of the thought!
思考の合間合間を埋めてくれるのだ!

「Frost at Midnight(深夜の霜)」は、サミュエル・テイラー・コールリッジが1798年頃に執筆した、内省と自然へのまなざしをテーマとする詩です。真夜中の静まり返った小屋で、詩人と赤子(息子)だけが目覚めているという状況から始まり、外には霜が降りており、寒々しいながらも不思議な静けさが広がっています。コールリッジのロマン派的な精神性が色濃く表れたこの詩は、自然、特に夜間における自然の微細な動きや音に人間の内面が呼応していく様を描き出しており、読者に深い瞑想の体験を与えます。

詩の前半では、凍てつく夜が持つ特別な静寂が強調されます。すべてが沈黙するなか、かすかな音や光がかえって際立ち、詩人はその静けさに感覚を研ぎ澄まされると同時に、記憶や思考が呼び起こされるのを感じます。また、揺り籠で眠る赤子がかすかな息を立てるだけで、無音に近い空間にとっては十分な“動き”を生み出すという点も象徴的。小さな生命の存在が、広大な宇宙や自然のなかでいかに尊く、そして不思議な輝きを放つかを示唆しているようにも読めます。

詩の終盤では、詩人が自らの息子の将来を思い描く場面があり、自身が幼少期を過ごした限定的な世界とは違い、大自然のなかで大いなる教えを受けてほしいという願いが語られます。これは、ロマン派の詩人たちが一貫して説いてきた“自然が人間を育む”という主題を、父親の視点からより親密に表現したものです。とりわけコールリッジは、自然の細やかな働きに神聖な意義を見出し、そこから学ぶことで、人間がより自由で豊かな精神性を獲得できると考えていました。

総じて、本作は夜更けの炉火が織りなす微かな動きと、深夜の霜がもたらす透徹した空気のなかで、詩人の思いが内面から外へ、そしてまた外から内面へと循環する過程を静かに追う作品といえます。そこには“自分自身”だけでなく“子の未来”を見つめる温かさや、自然への敬意と信頼が深く織り込まれており、ロマン派の核心を感じさせる一篇となっています。

要点

・夜の静寂と霜の光景が、詩人の内省や深い瞑想を誘い、微細な自然現象と人間の精神世界が響き合う。
・父親としての視点が強調され、わずかな息づかいを立てる赤子と大自然を結びつける温かいまなざしが印象的。
・ロマン派の理念である“自然による教え”が詩全体に通底し、幼子の成長を自然の中で育んでほしいという願いを託す。

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