[古典名詩] 倾杯(けいはい)「鹜落霜洲」 - 詩の概要

A serene autumn night scene with a frost-covered riverbank under a pale moonlight. In the foreground, a solitary figure sits near an ancient pavilion surrounded by fallen leaves, holding a cup of wine. The atmosphere is melancholic yet tranquil, evoking feelings of nostalgia and solitude.

倾杯(鹜落霜洲) - 柳永

倾杯(けいはい)「鹜落霜洲」 - 柳永(りゅう えい)

秋の川辺に募る望郷と恋情を詠む宋詞

鹜落霜洲,雁度云天,愁怀谁与诉?
鴨が霜降る中洲に舞い降り、雁が雲のたなびく空を渡る。この愁いをいったい誰に打ち明けようか。
A duck settles on a frosted islet, wild geese traverse the cloud-laden sky—who shall hear my sorrow?
旧约难凭,锦字空传,别后伤心处。
かつての契りはもはや頼りにできず、織り込まれた手紙だけが空しく残り、別れてからというもの胸は痛むばかり。
The old vow no longer holds; embroidered letters remain in vain, leaving only heartbreak since we parted.
甚时归?凭东风折柳,一抹残阳里。
いつの日に戻れるのか。東風を頼りに柳を折る、その姿は夕陽の名残に溶け込むように儚い。
When might I return? Trusting the eastern breeze, I break a willow branch—fading into the last rays of sunset.
凭栏久,水自流,断魂何处是?
欄干にもたれ佇むこと久しく、川の流れは絶えず続くばかり。魂がちぎれそうな思いは、いったいどこへ向かうのだろう。
Long I lean against the railing, watching ceaseless waters below. Where can my broken spirit find its home?

「倾杯(けいはい)『鹜落霜洲』」は、北宋の詞人・柳永(りゅう えい)が残した作品の一つとされ、秋の深まりとともに募る別離の愁い、あるいは望郷の想いが中心に描かれています。曲牌(詞牌)の名である「倾杯」は、文字通り“杯を傾ける”という意味合いを持ち、おそらくは宴席や酒の場を思わせるものですが、柳永の詞では酒のもたらす刹那的な感傷や、遠く離れた相手への胸の内を吐露するモチーフとして機能することが多く見られます。

冒頭の「鹜落霜洲,雁度云天」は、寒さが増してきた川辺に霜が降りる情景を背景に、水鳥や渡り鳥が舞う秋の気配を重ねています。日本語では「鴨(かも)」や「鴨科の水鳥」としてイメージされる“鹜(ぼく)”が中洲に降り立ち、さらに雁が高い雲を渡るという動的な描写を通じて、季節の移ろいと旅愁が印象深く示されます。ここから早くも、離愁を抱える作者の心情が強く暗示されるのです。

続く「旧约难凭,锦字空传」では、かつて交わした約束や、織り込まれた手紙(錦字)が空しく残っている状況が語られます。唐代から宋代にかけて、錦地の布などに書かれた書簡や、刺繍で飾られた手紙は愛や友情の証とされましたが、それさえも今は頼れないという悲哀が、この詞全体に深い哀感をもたらしています。

中盤から終盤にかけては、作者がいつか帰れる日を思い焦がす様子と、もはや戻れないかもしれないという絶望が交錯しています。柳を折る行為は中国文学でよく“別離”の象徴とされますが、それを東風にまかせるように描写することで、再会や帰郷の困難さを匂わせ、夕陽が沈む刹那的な情景に融け込ませるという巧みな構成になっています。

結びの「凭栏久,水自流,断魂何处是?」では、絶え間なく流れる川面を前に、どこにも行き場のない魂(断魂)の姿が象徴的に描かれ、読後に強い余韻を残します。まさに柳永が得意とする、自然の景色と人間の悲哀を重ね合わせる手法が凝縮された結末と言えるでしょう。このように、社会的には官僚として大成しなかった柳永ですが、その作品は民間で熱狂的に歌い継がれ、宮廷詩にはない豊かな情感と繊細な哀愁を届け続けています。

要点

・霜降る川辺や渡り鳥の動態描写により、秋の旅愁が強調される
・昔の約束や錦の書簡が空しく残り、時の流れの非情さを暗示
・“東風にまかせ柳を折る”場面が、別離と再会の不確実さを象徴
・川の絶え間ない流れに心を託すような構成が、深い無常感を喚起
・柳永特有の繊細な叙情性と、民衆に愛された詞風が遺憾なく発揮される名作

コメント
  • keita_blaze

    柳永の詩はいつもながら情感豊かですが、この作品では特に『離愁万绪』という言葉が際立っています。人々の心に触れる普遍的なテーマです。

  • SakuraBlossom

    『宿苇村山驛』というフレーズから、小さな村や山小屋での一夜を想像しました。そこでの静かな時間と詩人の内面の葛藤が対照的です。

  • yui_wave

    環境問題が叫ばれる中、詩の中に描かれる自然の美しさは、私たちにその大切さを再認識させるきっかけを与えてくれます。

  • GeishaDream

    羌笛の一音に心打たれる。

  • こうじ_09

    柳永の情感表現は素晴らしい。

  • あきら_87

    柳永の『傾杯(鹜落霜洲)』は、秋の情景を繊細に描き出し、深い孤独感と別れの哀しみを伝える作品です。この詩では、霜が降りた洲や霞のかかる渚など、絵画的な描写から始まります。これらの自然描写は単なる背景ではなく、詩人の感情を反映した鏡のような役割を果たしています。特に「暮雨乍歇」という一節は、雨上がりの静けさの中に漂う寂寥感を強調しており、それが詩全体の雰囲気を支配しています。また、「何人月下臨風處、起一声羌笛」という部分では、月明かりの下で風に吹かれながら誰かが羌笛を奏でるという光景が浮かびます。ここには無常の美しさと同時に、人とのつながりを求める切ない思いが込められています。
    さらに後半では、遠く離れた恋人を想う心情が克明に表現されています。「為憶芳容別後、水遥山遠」というフレーズは、物理的な距離だけでなく心の距離も暗示しており、そのせつなさが読む者の胸を打ちます。そして「楚峡雲歸、高陽人散」と続くことで、過ぎ去った時間や失われた関係への追憶がより鮮明になります。最後に「鹔鹴裘冷、誰念取、酒醒時寂寂」と締めくくられることで、酔いが覚めた後の虚無感と寒々とした孤独が深く印象付けられます。このような感情の積み重ねが、この詩を非常に情感豊かで心に響くものにしているのです。

  • hikari_star

    離愁の深さが伝わってくる。

  • tomo_dream

    秋の情景が目に浮かぶようだ。

  • 紗季

    『离愁万绪』という言葉が示すように、詩人はただ一つの感情ではなく、様々な思いが入り混じった状態を表現しています。

  • 玲央

    月と風の描写が美しい。

  • sumi_rainbow

    高陽の人々が去った後の虚しさ。

  • あすか_06

    旅人の孤独感が切ない。

  • キラキラ恵理

    遠く離れた想いが胸に響く。

  • しんや_61

    酒醒めた後の虚無感がリアル。

  • たろう_100

    詩の中の『蛩吟如織』という表現は、虫の鳴き声がまるで織物のように絡み合っている様子を描いており、秋の夜の雰囲気が鮮明に浮かびます。

  • みさき

    『誰念取、酒醒時寂寂』という最後の部分は、酔いが醒めた後の虚無感が見事に表現されています。人生の儚ささえ感じます。

  • miki_pulse

    珠帘の静けさが心地よい。

  • tomo_sun

    深い哀愁に包まれる詩。

  • わくわくりえ

    『寂寞珠簾夕』というフレーズは、珠簾の向こうにある静寂さが強調されており、その中での詩人の心境が深く感じられます。

  • 聡太

    自然と心情が見事に融合している。

  • れん

    寒さを感じる鹔鹴裘の描写。

  • さゆり7

    歴史的な観点から見ると、柳永の時代背景を考えると、彼の詩は当時の旅人の生活や感情を反映していると言えます。

  • ryo_night

    虫の声が寂しさを増幅している。

  • まなみ

    『何人月下臨風處』という場面は非常にロマンチックで、その中に一抹の寂しさも含まれています。まさに月光と風の中で感じる孤独感が伝わります。

  • GeishaDream

    『暮雨乍歇』の後に続く『小楫夜泊』という場面は、雨上がりの静かな夜に舟を止める情景が目に浮かびます。

  • 猫目小僧

    誰もが経験する別れの感情。

  • 朝凪花子

    この詩は、秋の夜の美しさと同時にその中に潜む寂しさを描いており、季節感と感情が絶妙に融合しています。

  • ゆきんこ

    芳容を思う気持ちに共感する。

  • わくわくりえ

    他の詩と比べると、柳永の『雨霖鈴』もまた別れの感情を描いていますが、こちらはより直接的な悲しみが前面に出ているように思います。

  • 夢追い二郎

    この詩はまるで絵画のようで、読んでいるだけで秋の風景が広がります。特に『暮雨乍歇』の部分は雨上がりの空気感まで感じ取れます。

  • 秋桜由美

    柳永の詩は常に情感豊かですが、本作では特に『天涯行客』というフレーズが旅人の孤独を象徴しており、多くの人に共感されるでしょう。

  • 琉生

    『水遥山遠』という言葉には、物理的な距離だけでなく、心の距離も感じられます。詩人がどれほど強く相手を思っているかがわかります。

  • もふもふみさき

    この詩は、旅先での孤独や懐かしさを描いたものですが、現代でも同じような感情を抱える人々に通じるものがあります。

  • キラキラ恵理

    楚峡の雲が印象的だ。

  • だいすけ

    最近、秋の訪れとともに紅葉狩りが話題になっていますが、この詩を読むと都会の喧騒とは異なる自然の静けさが感じられます。

  • shun_gale

    近年、旅に関するドキュメンタリーが増えていますが、この詩はまさに旅人の孤独と郷愁を象徴しており、そのテーマと共鳴します。

  • misa_love

    『高陽人散』という言葉には、かつて賑わっていた場所が今は静まり返っている様子が描かれており、時の流れを感じさせます。

  • ゆうき_77

    『楚峡雲歸』という一節は、雲が去っていく様子を描いていますが、それと同時に何か大切なものが失われていく感覚も伝えてきます。

  • ゆい

    李白の『静夜思』と比較すると、どちらも月をテーマにしていますが、柳永の詩はより複雑な感情を含んでおり、深く読み込む価値があります。

  • こうじ_09

    杜甫の詩は社会的な視点が多いですが、柳永の詩は個人の感情に焦点を当てており、特にこの詩はその特徴が顕著です。

  • ポップなあすか

    現代のSNS文化では瞬間的な感情が共有されますが、この詩は時間をかけて深く味わうことでその真価がわかるものです。

  • MatchaGreen

    『霜洲』や『煙渚』といった自然描写は、詩全体に奥行きを与え、読者をその場所へと引き込む力を持っています。

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