[古典名詩] 無題(相見時難別亦難) - 離別の中に秘められた永遠の愛と尽きせぬ想い

Untitled (Meeting Is Hard, Parting Is Also Hard)

Untitled (Meeting Is Hard, Parting Is Also Hard) - Li Shangyin

/无题(相见时难别亦难) - 李商隐/

逢瀬の困難と別離の切なさを綴った艶麗な抒情詩

相見時難別亦難,
会うときは難しく、別れるのもまた難しい、
When we meet it’s hard, and to part is just as hard,
東風無力百花殘。
春の東風は力を失い、百の花は散り果てる。
The east wind wanes in strength, leaving all blossoms withered.
春蚕到死絲方盡,
春の蚕は死ぬまで糸を吐き続け、
Spring silkworms spin their silk until the moment they perish,
蠟炬成灰淚始乾。
蝋燭は灰になってこそ、ようやく涙が乾くのだ。
A candle’s tears dry only once it’s burned away to ash.
曉鏡但愁雲鬢改,
明け方の鏡は、鬢(びん)の雲のような髪が衰えた姿を映し、
At dawn the mirror shows my cloud-like hair, now turned with care,
夜吟應覺月光寒。
夜に詩を吟じれば、月光の冷たさが胸に染みる。
And by night, reciting verses feels the chill of moonlight deep within.
蓬山此去無多路,
蓬莱の山へ行く道は、さほど遠くないというのに、
From here to the fabled Peng Mountain is said not far at all,
青鳥殷勤為探看。
青鳥(せいちょう)は懸命に飛び、あなたの消息を探りにゆく。
Yet the bluebird flies so eagerly, searching news of you afar.

『無題(相見時難別亦難)』は、唐代の詩人・李商隱(りしょういん)が卓越した抒情性と象徴的なイメージをもって描いた、恋愛詩の代表作の一つです。“相見時難別亦難”という一句で始まるこの作品は、愛する人との逢瀬がままならない苦しさや、別れの辛さを強く印象づけながら、幾重にも象徴を重ねることで余韻を深めています。

冒頭の二句から、「会うときは難しく、別れるのも難しい」という陳述は、単純に近づくことも離れることもできない恋の絶望と、それにも負けぬ切実な想いを端的に示しています。続く春蚕と蝋燭の比喩は、中国古典詩における“誓い”や“最後まで尽くす愛”を象徴し、己が生命を使い果たすまで想いを吐き出すという決意と哀しみを表すものとして有名です。

「曉鏡但愁雲鬢改,夜吟應覺月光寒」では、明け方に鏡をのぞけば衰えを感じ、夜に吟詠すれば月の冷光に身も心も震える――時間経過による変化と愛の孤独感が、日常の情景に重ねられています。さらに結句の「蓬山此去無多路,青鳥殷勤為探看。」は、仙境である蓬莱山(蓬山)への道がさほど遠くないとしながら、現実には青鳥が使いとしてせわしく飛び回らないと再会さえままならないという矛盾を描き、切ない恋情を暗示します。

李商隱の“無題詩”は、平易ではなく晦渋な表現の奥に高度な文学性を潜ませているのが特徴で、この作品も読者の多様な解釈を許容するよう巧みに構成されています。誰の目にも明らかにはしない恋の対象や状況――その微妙なニュアンスが、時代や地域を越えて、多くの人々の感情を揺さぶってきました。まさに“会いたいのに会えない”という普遍的なテーマを端的に示しつつ、壮大な比喩を駆使して表現する手法こそ、李商隱詩の神髄と言えます。

また、“蝉”や“蝋燭”、“春蚕”といったモチーフは、同時期の詩人たちにも好んで用いられましたが、李商隱はそこに象徴的・象徴主義的な深みを与え、読者に解釈の多義性を楽しませています。本作を読むとき、具体的な情景を想定するというよりも、言葉の響きや暗示される感情の綾に身をゆだねることが、より深い味わいへと導いてくれるでしょう。

要点

• 初句“相見時難別亦難”に凝縮される、逢えぬ切なさと別れの苦しみ
• 春蚕と蝋燭の比喩で示される、尽きるまで続く愛のかたち
• 時間の経過(曉鏡と夜吟)と月光がもたらす孤独感
• 蓬莱の山や青鳥が暗示する、容易く会えない相手への苦悶と願い
• 李商隱特有の晦渋かつ艶麗なスタイルが、多様な読解を誘う

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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