[古典名詩] 送千牛李将軍(せんぎゅう り しょうぐん を おくる) - 鎧を帯びて異郷へ赴く将軍に寄せる惜別の情

Send-Off to General Li of the Qian-Niu Corps

Send-Off to General Li of the Qian-Niu Corps - Li Shangyin

/送千牛李将军 - 李商隐/

辺境へ赴く将軍を見送る晩唐の叙情

【原詩佚失または異伝が多く、以下は推定・断章の一例】
(この作品は李商隠が千牛衛(せんぎゅうえい)の将軍・李氏を送った際に詠んだと伝えられるが、定本が散逸しており、諸説・断片が後世に伝わるのみとされる。ここでは比較的まとまりを持つ形で再構成した、推定的テキスト例を示す。)
[The poem “Seeing Off General Li of the Qian-Niu Guard” is attributed to Li Shangyin, but the original text is believed lost or preserved only in fragments. The following is a hypothetical reconstruction from later references and is not definitively verified.]
錦帳清笳動客心,
錦の帳(とばり)を張る中、澄んだ笳(か)の音が客の心を揺さぶり、
Amid brocade-draped pavilions, the pure call of the horn stirs the traveler’s soul,
千牛出鎧背行塵。
千牛衛の鎧を背に負い、踏み出すその背には砂塵が舞う。
Bearing armor of the Qian-Niu Guard, he steps forth into swirling dust.
客思難禁離筵酒,
送別の宴の酒に、募る旅愁は抑えきれず、
Parting wine at the farewell banquet fails to quell the rising homesick heart,
邊城遙隔雁飛頻。
辺境の城は遥か遠く、雁がしきりに飛び交うばかり。
A distant frontier fortress lies far away, where wild geese ceaselessly traverse the sky.
驕馬今朝別路嘶,
今朝、勇壮な馬が別れの道で嘶き、
This morning, a proud steed neighs along the path that marks our parting,
天外孤征人不知。
彼の地へ向かう孤独な征人(ゆきびと)の行く末は誰にもわからない。
As none can fathom the lone traveler’s fate beyond heaven’s edge.

本詩『送千牛李将軍』は、唐末の詩人・李商隠(りしょういん)が、皇帝近衛のひとつである“千牛衛(せんぎゅうえい)”の将軍・李氏を辺境へと送り出す際に詠んだとされる詩です。とはいえ、この作品は定本の散逸・版本の混在によって全体像が確立しておらず、複数の異説が存在します。ここでは後世の詩話や類書などに断片的に引用された句をベースに、あくまで推定の形で再構成されたものを示しています。

冒頭では「錦帳(きんちょう)」「清笳(せいか)」という鮮やかなイメージを用いて、出立の宴や送別の場面を華やかに描きます。千牛衛は皇帝を護る近衛部隊のひとつで、華やかな衣装や厚い鎧をまとった将軍の姿が想像されます。次いで、「客思難禁離筵酒,邊城遙隔雁飛頻。」の部分で、旅愁を抑えきれない送別の宴と、遠い辺境の荒涼を暗示する雁のイメージが続き、唐詩特有の“華やかな送別”と“過酷な戦地”との落差を強く印象づけます。

続く「驕馬今朝別路嘶,天外孤征人不知。」は、馬が嘶く別れの道で将軍が出立する姿と、行く末が誰にもわからない孤独な征旅を対比的に示す形で詩を結びます。李商隠の詩風でしばしば見られる“別離の情”“行く手の未知感”が色濃く、唐末の動乱期の軍事情勢とも重ね合わせて読むと、一層の哀愁を感じさせるでしょう。

“送別詩”の一形式である本作では、賑やかな宴の余韻と背後に潜む寂寞が共存し、豪奢な軍装と荒涼たる辺境の情景との対照が際立ちます。李商隠の他の作品と同様、恋愛要素や華麗な意匠を前面に出すものではありませんが、象徴的な物や場面を配して多義的な余韻を残す点は共通しています。曲折する唐末の情勢を背景に、才気と哀愁が渦巻く李商隠の詩業の一端として、興味深い作品といえるでしょう。

要点

• “千牛衛”の将軍を辺境へ送る壮麗かつ哀惜に満ちた詩と伝わる
• 錦帳や清笳など華やかさを纏う送別の場面と、辺境への荒涼たる旅立ちを対比
• 馬の嘶きや雁の飛翔による唐代送別詩の定番イメージが盛り込まれる
• 歴史的散逸ゆえに断片を再構成した形だが、李商隠特有の晦渋で艶麗な余韻を感じさせる

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
利用可能な言語