The Charcoal Seller - Bai Juyi
/卖炭翁 - 白居易/
The Charcoal Seller - Bai Juyi
/卖炭翁 - 白居易/
白居易(はく きょい)の代表作の一つとされる『賣炭翁』は、貧しい老翁が炭を焼いて売り生計を立てている様子を描きつつ、官や宮廷の横暴さ、社会の不公平さを鋭く批判した社会詩です。
冒頭では、南山で炭を焼く老翁が、灰と煤で顔や手を汚し、わずかな金銭で食べる物と衣服をなんとか賄っている姿が描かれます。薄手の衣をまとい、むしろ寒いほどに天候が冷え込むことを願うという、矛盾を抱えた切実な思いが読者の心を揺さぶります。炭が高値で売れなければ、家族が飢えをしのげない現実が彼をそう願わせるのです。
しかし、いざ炭を売ろうと市に向かった矢先に、官の使者が二騎の馬に乗って現れ、強権をもって炭車を没収してしまいます。その代償として与えられるのは、ほんの少しの織物だけ。老翁にとっては、千斤を超える貴重な炭が公然と奪われたも同然であり、その理不尽さが痛烈に浮かび上がります。
白居易は、こうした農民や庶民の苦しい生活をまざまざと描くことで、社会全体に横行する不条理への批判を提示しています。当時の唐代では宮廷の奢侈や官吏の腐敗が深刻な問題であり、その被害を最も受けるのは都市や農村で生活する貧しい人々でした。本作は、その歪みを眼前に見せつけられるような臨場感とともに、心に残る印象的な場面で読み手を強く訴えかけます。
表現自体は難解な語を避け、平易な文体で書かれているため、当時だけでなく後世の読者にも理解しやすい形式となっています。だからこそ、この詩が何世紀にもわたって読み継がれ、社会への批判や庶民への共感を示す典型例として評価されているのです。現代においても、弱者が強権に翻弄されるという構造は少なからず存在し、『賣炭翁』が放つメッセージの普遍性を痛感させられます。
・炭を売って生計を立てる老翁が直面する深刻な貧困と寒さ
・官権力が横暴に炭を奪う姿に見える社会構造の不公平
・寒さを望まなければ生活できない悲痛な矛盾
・白居易の特徴である平易な言葉によるリアルな情景描写
・弱者と権力の対立を通して浮かぶ、時代を超えた社会的テーマ