[古典名詩] 退隠の場所を離れたことについての省察 - 本詩の概要

Reflections on Having Left a Place of Retirement

Reflections on Having Left a Place of Retirement - Samuel Taylor Coleridge

退隠の場所を離れたことについての省察 - サミュエル・テイラー・コールリッジ

静寂の地から旅立つ心の軌跡

1. Low was our pretty cot: our tallest rose
1. 低く愛らしい我らの小屋――そこで最も背の高い薔薇は
2. Peep’d at the chamber-window. We could hear
2. 部屋の窓から顔を覗かせていた。その時、私たちの耳には
3. At silent noon, and eve, and early morn,
3. 静かな正午、夕べ、そして早朝にも
4. The sea’s faint murmur. In the open air
4. 海のかすかなざわめきが聞こえた。戸外では
5. Our myrtles blossom’d; and across the porch
5. ミルトルの花が咲き、玄関先を横切って
6. Thick jasmines twined: the little landscape round
6. 濃密なジャスミンが絡みつく。周りの小さな風景は
7. Was green and woody, and refresh’d the eye.
7. 緑豊かで木々に覆われ、目を心地よく潤した。
8. It was a spot which you might aptly call
8. そこはまさに呼ぶにふさわしい場所だった
9. The Valley of Seclusion! Once I saw
9. 「隠遁の谷」とでも! あるとき私は見かけた
10. (Hallowing his Sabbath-day by quietness)
10. (安息日を静寂の中で神聖に保とうとする)
11. A wealthy son of commerce saunter by,
11. 商業で富んだ男が、ゆっくりと通り過ぎるのを
12. Bristowa’s citizen: methought, it calm’d
12. ブリストルの市民だ。思うに、その光景は
13. His thirst of idle gold, and made him muse
13. 彼の虚しい金銭欲を和らげ、静かな思索へと誘い
14. With wiser feelings: for he paused, and look’d
14. より賢明な感慨をもたらした。彼は立ち止まり、見回し
15. With a pleased sadness, and gazed all around,
15. 嬉しさと切なさが混じる面持ちで周囲を見渡し
16. Then eyed our cottage, and gazed round again,
16. それから我らの小屋を見て、さらに辺りを見回して
17. And sigh’d, and said, it was a blessed place.
17. ため息をつき、そこはなんと恵まれた場所だろうと言った。
18. And we were bless’d. Oft with patient ear
18. そして私たちは本当に祝福されていた。しばしば忍耐強く耳を傾け
19. Long-listening to the viewless sky-lark’s note
19. 姿の見えないヒバリの歌声を長く聴いた
20. (Viewless, or haply for a moment seen
20. (見えないか、あるいは一瞬だけ
21. Gleaming on sunny wing) and such repose
21. 日差しを浴びた翼がきらめくか)。そしてそんな安らぎの中
22. Of the horizontal bee that hums and soars,
22. 水平に飛ぶミツバチの羽音と舞い上がる姿を楽しみ
23. Oft would we shape through quiet contemplation
23. 静かな思索の中で、私たちはしばしば形づくった
24. Our dream of happiness,—lurk in the gloom
24. 幸福の夢を――その夢は薄暗い影に潜み
25. Of its own silent being. And yes! what bliss,
25. それ自体の静かな存在の中にあった。そして、そう!なんという至福だろう
26. Even in that vacant mood, to be alone
26. 何も考えずにいる心のまま、一人であるということは
27. And watch the pages of the silent sky
27. 静寂の空というページを眺めることであり
28. Spread forth for us to read; or in the gloom
28. 私たちが読むために広がっているのだ。そして、あるいはその影の中で
29. Of bowering shrubs, to watch the silent flow
29. 木々がこんもりした茂みの奥にある、静かに流れる
30. Of that sweet stream that winds in darkest shade
30. 甘美な小川を見守る。それは最も暗い影をくねりながら流れ
31. And floweth on in silent happiness!
31. 静かな幸せに包まれて続いていくのだ!
32. So pass’d our days, no thought of worldly gain
32. そうして私たちの日々は過ぎた。世俗的な利益などという考えは
33. E’er tarnish’d one pure day. And we were bless’d,
33. 一日たりともその純粋さを汚さなかった。そして私たちは祝福され
34. We who have left that sweet sequester’d nook
34. あの甘やかな人里離れた一角を離れた私たちは
35. Of calm, contented joy. Now, from the world,
35. 穏やかで満ち足りた喜びの場所を去り、今、世の中へと出た
36. The gloom that mantles o’er the land we rove,
36. 私たちの歩む地上には暗い陰が広がっている
37. Must we not oft forget that thou and I,
37. 私たちはしばしば忘れてしまうのではないか、あなたと私は
38. Dear friend! have parted?
38. 親友よ! すでに別れてしまったということを?
39. Must it not suffice,
39. それでも足りないだろうか
40. For loyalty is left, and faith in heaven,
40. 忠誠心は残り、天を信じる心もあるのだが
41. That virtuous love shall not be quite forlorn?
41. 高潔な愛は、決して見捨てられはしないだろうか?
42. Yet that the purest bliss on earth is dash’d
42. だが地上で最も純粋な至福ですら、打ち砕かれるのだ
43. With painful consciousness that it is so brief,
43. それがどれほど儚いかを痛感するがゆえに
44. Hence from the quiet vantage-ground of rest
44. やがては、安らぎの静かな特等席から
45. On the wide waste of tribulation, we look round
45. 苦難の広大な荒れ野を見渡しながら
46. And see how bright the sunshine was, and that
46. かつての日差しがいかに明るかったかを思い、そして
47. We are, indeed, alone. But hush! be still!
47. 私たちは本当に孤独なのだと知る。だが静かに!黙して!
48. A voice from heaven answers: “Blest are they
48. 天上から声が聞こえる。「祝福されるのは
49. Who in their sadness share another’s woe;
49. 自らの悲しみの中で他者の苦しみを分かち合う者たち
50. And when they would rejoice, with them that joy!”
50. そして喜ぶときには、その喜びをともにする者たちなのだ!」

この詩は、自然と静けさに囲まれた小さな家での生活を振り返りながら、そこを離れたあとに感じる喪失感と人間的成長とを描いた作品です。サミュエル・テイラー・コールリッジは、田園と隠遁の地がもたらす穏やかな喜びを細やかに言葉にし、同時に社会へと戻る時の苦悩や孤独も真摯に表現しています。詩全体を通じて、自然との調和がもたらす内省や、精神的な充足感を強調しつつ、人間が避けては通れない時間の経過と分別を得る過程が示唆されているのが特徴です。

詩の前半では、海や花々、鳥や小川といった穏やかな自然の描写を通じて、作者がいかに深く心の平安を見出していたかが描かれます。ここでは世間的な成功や富といった価値観が一時的に静まっており、むしろ自然と対話することで得られる静寂が尊いものとして讃えられています。詩中に登場する「商業で富んだ男」が、その景色に触れて一瞬でも心を洗われる場面は、自然の力が人の欲望さえも和らげることを物語ります。

しかし詩の後半になると、その平穏な隠れ家を後にせざるを得ない作者の心情が映し出され、世界に戻ることで見えてくる孤独や痛みが語られます。時間が経ち、穏やかな幸福が過去のものとなったとき、人はその価値を改めて思い知り、その儚さに切なさを覚えます。にもかかわらず、詩の最後には「他者の悲しみを分かち合い、喜びをともにする者は祝福される」という天の声が示され、人間関係の中での助け合いと共感が、最終的な救いと慰めになるのだと詠み込みます。

このように本詩は、自然の恵みと社会生活のはざまで揺れる人間の内面を描写するとともに、人とのつながりや共感を希求する姿が深みをもって表現されています。田舎の隠遁生活から離れたあとでも、内省と愛、そして他者との結びつきがある限り、人は真の孤独から救われるという普遍的なテーマが込められているのです。

要点

・自然の静寂に身を置くことの尊さと、そこから得られる精神的な安らぎ
・社会へと戻った際に感じる喪失感や孤独を、成長や悟りへと変える視点
・時間や人生の儚さに気づくことで深まる内省
・他者の悲しみを分かち合い、喜びを共有することの大切さ
・孤独にとどまらず、人とのつながりが生む真の救いと希望

コメント
    楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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