Mount Zhongnan - Wang Wei
/终南山 - 王维/
Mount Zhongnan - Wang Wei
/终南山 - 王维/
『終南山』は、王維(おうい)が唐代の代表的な山水詩として詠んだ七言律詩です。終南山(しゅうなんざん)は長安の近郊にそびえる名峰として古くから知られており、多くの詩人や隠者がこの山の美や深さに触れ、作品を残してきました。王維自身も自然や仏教に通じた審美観を持ち、官界で活躍しながらも山水に深く心を寄せた人物として有名です。
本詩の冒頭二句「太乙近天都,連山到海隅。」によって提示されるのは、太乙峰(たいいつほう)を中心とした雄大な山並みが天空・海辺にまで連なっている広大な情景です。唐代の首都・長安にほど近いとはいえ、その景観はまるで天上界にも届かんばかりのスケールを誇り、人々に“悠遠の地”という印象を与えました。
続く三、四句「白雲回望合,青靄入看無。」では、視点を転じて、山間に満ちる雲や靄の描写がなされます。遠くを振り返れば白雲が一面を覆い、さらに奥深く分け入れば青いもやが視界を奪うほどに濃密。ここに王維特有の「詩中に画あり、画中に詩あり」という美学が表れており、一幅の山水画のように空間的な奥行きと神秘感を喚起しています。
五、六句の「分野中峰変,陰晴眾壑殊。」は、山の陰晴や気候の変化に伴って、谷ごとに景観がまるで違うさまを示します。山間部の地理的な複雑さや、天候が瞬時に移り変わる様子を、簡潔な言葉の中で鮮明に読者に伝える手腕には、王維の詩人としての才能と豊かな観察力がうかがえます。同時に、自然に対する深い畏怖と憧れが隠されています。
結句「欲投人處宿,隔水問樵夫。」では、荒涼とも思える山中で人の気配を求める詩人の姿が描かれています。川を隔てて樵夫に宿の在り処を尋ねる情景には、“孤客”としての自己を客観視する王維のまなざしが光ります。終南山の自然の壮大さが強調される一方で、詩人本人の存在は謙虚で小さく、むしろ山との対峙を通して得られる精神的な浄化や悟りを暗示しているとも捉えられます。
総じて『終南山』は、唐代の都・長安を間近に控えながらも、巨大な自然や変幻する天候、そして人里離れた隠逸の趣が巧みに融合した山水詩の名篇です。王維は官職の合間を縫い、こうした山へ実際に足を運んでは詩や画を残しました。彼が追求した「俗世を離れて大自然に身をゆだねる」隠逸思想が、本作にも窺われるのです。
同時に、この詩には“山は山として変わることなく、しかし訪れる者の心境によって姿を変える”という中国古典における山水の奥義が凝縮されています。読者はわずか八句の中に、山岳の壮大さ・神秘さ・険しさ・優しさまでもが内包されていることを感じ取り、まるで自らも終南山の深処に佇むかのような体験を得ることができるでしょう。
• 太乙峰をはじめとする連なる山々の雄大なスケール
• 白雲や青靄が織りなす神秘的な山岳の情景
• 陰晴や谷ごとに異なる表情を見せる大自然への畏怖と憧れ
• 人里離れた山中で樵夫を探す詩人の姿に、王維の隠逸思想が鮮やかに投影