A Spring Night in Luoyang, Hearing a Flute - Li Bai
/春夜洛城闻笛 - 李白/
A Spring Night in Luoyang, Hearing a Flute - Li Bai
/春夜洛城闻笛 - 李白/
「春夜洛城聞笛」は、李白が春の夜に洛陽の街で笛の音を聞き、その響きによって故郷への思いが強まる様を、わずか四句の中に凝縮して表現した作品です。題名の「洛城」は洛陽を指し、「誰家玉笛暗飛聲」には、夜の闇に柔らかく漂う笛の音を感じる詩人の耳が描かれています。
続く「散入春風滿洛城」は、その笛の音が春風に乗って洛陽じゅうを満たしていく情景を生き生きと伝えます。春の夜特有の静けさの中で、一層冴えわたる笛の響きが強調され、読者に幻想的な感覚をもたらします。「暗飛聲」という言葉は、はっきりと姿を見せない笛の奏者がどこかにいるという距離感や、夜の神秘性をも表現していると言えます。
そして「此夜曲中聞折柳」では、流れてくる笛の曲目が「折柳」であることに言及します。「折柳」というのは別離の場面でよく用いられた曲や習俗の名称として知られ、古くから送別や故郷を思う歌として象徴的に扱われてきました。この曲を耳にすることで、詩人の心は一気に郷愁へと傾いていくのです。
締めの「何人不起故園情」では、こんなにも哀愁を帯びた旋律を耳にして、誰が故郷に思いを寄せずにいられようか、と強く問う形を取っています。李白は各地を遍歴しながら詩作を行っていましたが、その奔放な生き方の裏側には、いつも故郷や遠く離れた友人への想いがありました。そんな彼の内面が、春の夜の洛城に響く笛の音と結びつき、一瞬で読者の胸に届くように巧みに描かれています。
夜の闇と春の風、そして笛の旋律が融合したこの詩は、短さにもかかわらず非常に豊かな余韻をもっており、唐代詩の繊細な情趣を端的に示す好例と言えるでしょう。
・春の夜に漂う玉笛の響きが、故郷への思いを呼び起こす
・「折柳」は古来、別離や郷愁を象徴する曲として用いられてきた
・わずか四句で、静寂な夜と切ない望郷の情を鮮明に描き出す
・李白の豪放な一面とは対照的に、繊細で抒情的な詩風を味わえる作品