[古典名詩] 自咏(じえい) - 詩の概要と背景

Self-Reflection

自咏 - 陆游

自咏(じえい) - 陸游(りくゆう)

老いてなお宿る壮志を胸に、静寂の中で己を映す詩

白首雄心尚未消,
白髪になれども、かつての雄々しき志は今なお消えず。
Though hair has turned white, my lofty ambitions refuse to fade.
青灯相伴耿耿宵。
青き燈のともりし宵に、なお心は冴えわたる。
By the pale lamp in the silent night, my mind remains alert and clear.
百年功業空回首,
百年の功業は虚しくも過ぎ去り、振り返るばかり。
A century of endeavors lies wasted behind me; I can only glance back in vain.
江湖归去一渔樵。
江湖に帰り、漁や薪採りにいそしむ身となるのもまたよし。
I shall return to river and lake as a humble fisherman and woodcutter.

「自咏(じえい)」は、中国南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)が、自身を重ねるように詠んだとされる一篇です。政治的野心や愛国的心情を強く抱きながらも、波乱に富んだ生涯の中で理想を果たせず、晩年には一種の諦観や達観を帯びた心境が顕著にあらわれます。本作では、白髪を迎えた身であっても衰えぬ抱負を語りながら、灯りに照らされた夜の静けさの中で、過ぎ去った功名や功業を空しく振り返ります。

最後の「江湖に帰り、漁や薪採りにいそしむ身となるのもまたよし」というくだりは、中国文学の伝統的な隠逸思想を反映した表現として読めます。儒教的な「仕官の道」と、山や水辺に隠棲して悠々自適に生きる「隠逸の道」のはざまで揺れ動く詩人の姿が、しみじみとした余韻を残します。陸游の愛国詩とは違い、政治的主張を前面に押し出すわけではなく、むしろ諦観と残心を含む静かな筆致で、己の人生を総括している点が特徴です。

要点

・白髪になっても消えない大志と、過ぎ去った功名への痛切な思いが同居
・宵の青い灯りが、覚めやらぬ心と静けさを対比的に演出
・最終的に江湖へ帰る隠逸のモチーフを通じて、壮志と隠遁のはざまで揺れる陸游の姿が浮かび上がる

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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