Le You Yuan - Li Shangyin
/乐游原 - 李商隐/
Le You Yuan - Li Shangyin
/乐游原 - 李商隐/
本詩『樂遊原』は、唐代の詩人・李商隠(りしょういん)が都の近郊にある樂遊原(らくゆうげん)に登り、そこから望む夕陽と自身の胸中を短く叙情的に表した七言絶句です。この地はかつて多くの詩人が行楽に訪れた名勝であり、李商隠もまたその壮麗な夕景を愛しつつ、どこか浮かない心を重ねています。
冒頭の「向晚意不適」は、“夕方が近づくにつれ、訳もなく気分が晴れない”状態を率直に言い表したもの。さらに続く「驅車登古原」では、気晴らしを求めるかのように馬車を駆って古い高原へ登る姿が描かれています。すでに心に渦巻く何らかの不安やもどかしさを暗示し、その解決を景色の中に求めているようにも読めます。
後半の「夕陽無限好, 只是近黃昏。」は、古今多くの詩人に愛され、引用されてきた有名な結句です。どこまでも美しい夕陽が、実は夜の訪れを告げるものであるという矛盾が、わずかな語句に凝縮されています。このパラドックスこそが、人生の栄光や美しさがやがては黄昏へと向かう無常観を示唆しており、李商隠の詩風でよく見られる“美と哀愁の同居”を象徴的に表現しています。
人生や時の盛衰を短い一瞬の夕景になぞらえる手法は、中国詩の伝統の中でもよく用いられますが、李商隠の言葉選びは格別に洗練され、かつ多義的である点が魅力です。表面上は風景詩の体裁をとりながら、その背後には「盛りの美が実は終わりを予感させる」という儚さや不安が潜んでいるのです。こうした手法が本作を読む上での醍醐味であり、読む者の想像力を広くかき立てます。
『樂遊原』はわずか四句でありながら、当時の唐の都付近の華やかさと、そこに暮らす人々の抱える複雑な感情を見事に映し出す作品とも言えます。夕陽の美しさに宿る哀愁を味わうことで、李商隠が生きた時代の空気感や、彼自身の内面にある繊細な感受性を垣間見ることができるでしょう。
• 静かに訪れる夕暮れへの焦燥感と、高原の登頂で景色に心を重ねる心情
• 結句の「夕陽無限好,只是近黃昏」は、中国詩における無常観の代表的表現
• 美しい夕陽が黄昏を告げるように、人の栄華や幸福もやがては終わりを迎える
• 李商隠特有の「美の裏の哀しみ」を短い表現に凝縮した名作