阙题(金阙西厢叠翠斜) - 刘禹锡
(題名不詳)「金阙西厢叠翠斜」より - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
阙题(金阙西厢叠翠斜) - 刘禹锡
(題名不詳)「金阙西厢叠翠斜」より - 劉禹錫(りゅう うしゃく)
「金阙西厢叠翠斜(きんけつ せいしょう せきすい しゃ)」は、題名が伝わらない(阙題)詩のひとつであり、唐代の詩人・劉禹錫(りゅう うしゃく)が宮廷や貴顕の世界を背景に、雅趣と身分の変遷を巧みに詠んだ作品です。
冒頭の「金阙西厢叠翠斜」では、金閣(きんかく)――すなわち豪奢な宮殿や貴族邸を連想させる建物の西の廂に、幾重にも重なる翠が斜めに映える様子を描写し、目に鮮やかな景観を提示します。続く「碧梧桐影锦窗纱」では、碧梧桐(あおぎり)の葉や枝の影が錦のように美しい窓の紗(すだれ)に揺れて映り込む情景を捉え、宮苑ならではの優雅な空気をいっそう強く印象づけるでしょう。
後半では「如今声价虽高后」と詠い、詩中の人物あるいは対象が、かつてよりも世間で高い評判を得ていることを示します。宮廷や高位の世界に昇りつめた境遇、または名声を得た事態を暗示しているとも解釈できます。その上で「一再风流胜旧家」と続け、二度までも風流を極めて、かつての“旧家”――過去の住まい(あるいは身分)を凌駕している現状を描写しています。
この詩は四句のみですが、優雅な風景の背後に、身分の移り変わりや高貴な場での新たな栄達の様子がうかがえます。宮廷詩や社交詩としての趣を感じさせる一方で、「以前の住まいに比べると風流が勝っている」という少し皮肉めいた表現にも読め、社会的成功や昇進を得た人間の内面を淡く映し出している可能性もあります。劉禹錫自身、左遷と復帰を繰り返す波乱の官僚生活を送りましたが、そうした経験が彼の詩作にさまざまな含意を与えました。
「阙題(金阙西厢叠翠斜)」は、宮廷や貴族趣味のきらびやかさ、そしてそれを取り巻く人間模様を思わせる奥行きを持ち、短詩ながらも読む者に鮮やかな情景と微妙なニュアンスを伝えています。貴顕の世界への賛美と同時に、人生の盛衰や変転を暗示するような唐詩特有の余韻が、この作品の大きな魅力と言えます。
・宮廷や貴族世界を背景に、優美な光景と身分変化を凝縮
・窓紗に揺れる梧桐の影が、一瞬の華やぎと余韻を強調
・「いまや高い声価」と「かつての住まいを凌ぐ風流」が、社会的成功や昇進を暗示
・劉禹錫の左遷と復帰の経験が、詩の含意に深みを与える
・短い詩句に豊かな雅趣と皮肉が漂う、宮廷詩のエッセンスを感じられる