[古典名詩] 養母の物語 - あらすじの要点

The Foster-Mother's Tale

The Foster-Mother's Tale - Samuel Taylor Coleridge

養母の物語 - サミュエル・テイラー・コールリッジ

失われた過去と再会の予感が交錯する、愛と記憶の物語

FOSTER-MOTHER
養母
I never saw the man whom you describe.
あなたが言う男性を、私は見たことがありません。
MARIA
マリア
'Tis strange! he spake of you familiarly
不思議ですわ! 彼はあなたを親しげに語っていました
As mine and Albert's common Foster-mother.
私とアルバートの共通の養母だと。
FOSTER-MOTHER
養母
Now blessings on the man, whoe'er he be,
まあ、彼が誰であれ祝福を与えましょう、
That joined your names with mine! O my sweet lady,
あなた方の名を私と結びつけてくれた人なのですから! ああ、愛しいお嬢様、
As often as I think of those dear times
あの懐かしい日々を思い出すたびに
When you two little ones would stand at eve
夕暮れには、あなたとアルバートのお二人が幼い姿で
On each side of my chair, and make me learn
私の椅子の両側に立って、あなた方が学んだことを私に教えてくれました
All you had learnt in the day; and how to talk
その日学んだすべてを、そしてどんなふうに話すかまでも
Of the great tower of Combre; and the voyage
コンブレの大きな塔や、その航海についても
Of many days, two brave young Englishmen
何日もかけて、二人の勇敢なイギリスの若者が
Had made, untouched by storm or threat'ning sword,
嵐や脅威の剣に妨げられることなく成し遂げた旅の話を
To purchase that proud realm beyond the sea;
海の向こうにある誇り高き領域を手に入れるために、という物語でしたね。
And then how dreadfully you both would start,
そして、どれほどあなたたち二人が恐ろしげに飛び上がったことか、
When the door opened; and the draft of air
扉が開き、冷たい風が
Upon your faces smote: all this being told
あなた方の顔を打ったときのことを、すべて語るうちに
I something added of your father's ship
私は、あなたのお父様の船についても少し話しました
Which the great armaments of either realm
あれは、双方の大国の大艦隊が
Swept from the sea: the calm hour, when you cried,
海から消し去ってしまった船でした。あなたが泣き叫んだあの穏やかな時間、
All, all are perished! so you dear ones dropt
「みんな、みんな沈んでしまった!」と。そうして愛しい子たちは
A hand in each of mine, and we all wept.
私の両手をそれぞれ握り、皆で泣いたものです。
I never saw the man whom you describe.
あなたが言う男性を、私は見たことがありません。

この詩は劇的な対話形式で始まり、語り手である養母とマリアが会話を交わす場面が描かれています。最初に、マリアが見知らぬ男性のことを口にし、彼が自分たち二人の“共通の養母”を知っていると話したことから物語が動き出します。養母はその男については知らないと答えつつも、マリアとアルバートの幼少期の思い出を懐かしそうに語り始めます。

養母は夕暮れどき、幼いマリアとアルバートが両脇に立ち、日中学んだことを自分に教えてくれた日のことを回想します。さらに、コンブレの大きな塔や勇敢なイギリスの若者たちの航海など、子どもたちが夢中になっていた物語にも言及します。扉が開いて冷たい風が吹き込むとき、彼らがどれほど怯えていたかの描写からは、子どもたちの繊細な感情や純真さが伺えます。

しかし、物語はただの郷愁に浸るだけで終わりません。養母はマリアの父の船が大国の艦隊により海から消し去られてしまった悲劇にも触れます。マリアとアルバートが「みんな沈んでしまった!」と泣き叫んだとき、養母は二人の小さな手をそれぞれ握り、共に悲しみに暮れたと言います。この情景は、愛と喪失が入り混じる哀感を読者に強く印象付けます。

ラストで再び養母は「あなたが言う男性を、私は見たことがありません」と繰り返しますが、この言葉には、過去と現在の交錯や未知なる存在への余韻が感じられます。詩自体は断片的に終わるため、読者には物語の全容を想像する余地が与えられるのです。

コールリッジはロマン派詩人として、人間の感情や想像力を深く掘り下げる作風で知られています。この作品でも、日常の会話を通して潜む悲しみや愛情、そして語られない運命の不思議さを巧みに表現しています。わずかなやり取りから、一つの家族史と大きな歴史的背景が重なり合い、劇的な余韻をもたらしている点が特徴です。同時に、まだ明かされていない部分を残すことで、読者の想像力を刺激し、物語の先を思い描かせる大きな魅力も秘められています。

こうしたドラマ仕立ての短い詩片は、コールリッジの物語性豊かな詩作手法を示す好例といえるでしょう。彼の詩に通底するテーマである“人間の内面の神秘”や“言葉にならない感情の揺らぎ”が、やさしくも切ない養母の語りによって余韻深く表現されています。

要点

・会話形式から、登場人物の感情や背景を断片的に窺い知ることができる
・幼少期の思い出と喪失感が織り重なることで、詩に哀愁と深みが生まれている
・ロマン派詩人コールリッジの特徴である想像力と人間心理への洞察が凝縮されている
・未完のような構成が読者の想像力を掻き立て、物語の余韻を残している
・家族の絆や歴史の大きな運命に対する繊細な視点が描かれている

コメント
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