[古典名詩] 雨霖鈴(うりんれい)「伊州歌」 - 詩の概要

Rainy Night Bell (Song of Yi Prefecture)

雨霖铃(伊州歌) - 柳永

雨霖鈴(うりんれい)「伊州歌」 - 柳永(りゅう えい)

秋の夜雨に映える別離の嘆きを歌う抒情詞

伊州歌起,
伊州(いしゅう)の調べが響き出し、
The Yi Zhou melody begins,
尘世多情谁系?
浮き世の多情を、いったい誰が留め得ようか。
Yet who can bind these myriad mortal affections in time?
凉月啼鸦,愁云暗度,残酒泪依稀。
冷やかな月のもと、烏が鳴き、憂いの雲は密やかに流れ、残った酒に浮かぶ涙はかすかに滲む。
Beneath a chilling moon, crows cry; sorrowful clouds drift unseen, tears faintly blur the dregs of wine.
兰舟已去,故园寥落,欲说别恨成悲。
蘭舟(らんしゅう)はすでに遠く旅立ち、故郷は寂れ果て、別れの恨みを語ろうとすれば胸は悲しみで満たされる。
The orchid boat has departed, leaving my homeland desolate; longing to voice my parting grief, I’m overcome by sorrow.
中宵未尽,梦中回首,谁料落花同逝?
夜半はまだ明けやらず、夢の中で振り返っても、散りゆく花のようにすべては過ぎ去ってしまうのか。
Midnight lingers; though I glance back in dreams, like fallen blossoms, all has slipped away beyond recall.

「雨霖鈴(伊州歌)」は、北宋の詞人・柳永(りゅう えい)が創作したと伝えられる一曲であり、伊州調の音律を取り入れて別離の情感を強く打ち出している点が大きな特色です。曲名に用いられている「雨霖鈴」という詞牌(しはい)は、もともと淋しい雨夜や離愁の場面を描くのに適した格式をもっており、柳永はその枠組みを活かして秋夜の冷ややかな雰囲気と離別の痛みを重層的に表現しています。

冒頭の「伊州歌起,尘世多情谁系?」では、美しくも儚い音楽の始まりを通して、この浮世に溢れる多情はいったい何によって束縛されるのか、という問いを暗示します。続く「凉月啼鸦,愁云暗度,残酒泪依稀。」では、冷やかな月の下で鳴く烏、密やかに流れる雲、そして残った酒ににじむ涙といった静物的かつ叙情的な描写が、寂寞の世界観を際立たせます。

後半の「兰舟已去,故园寥落,欲说别恨成悲。」は、故郷を離れる舟と荒れ果てた故園のイメージを重ねることで、別離や失われたものへの嘆きが深まる様子が表現されています。詩人の胸に巣くう別れの恨みや悲しみは、船旅という止められない運命を象徴するモチーフと共に増幅されるかのようです。そして、締めくくりの「中宵未尽,梦中回首,谁料落花同逝?」では、夜半の闇の中で振り返ってみても、花が散るように何もかもが過ぎ去ってしまった現実を突きつけられ、読者は深い余韻に浸ることとなります。

柳永の詞は宮廷よりも民間で人気を博し、歌妓たちの間でも愛唱されてきました。官能的でありながら繊細な表現によって、誰もが感じ得る別離や後悔の情感を掬い上げる作風が、当時としては革新的だったのです。本作「雨霖鈴(伊州歌)」においても、わずか数行の中に秋の夜の寂しさや人生の無常が凝縮されており、今もなお多くの読者の心を打ち続けています。

要点

・伊州調の旋律を背景とし、秋夜と離別の情緒を重厚に描写
・烏の鳴き声や秋の月などの象徴的イメージが、深い寂寥を際立たせる
・蘭舟や落ちた花など、過去の喪失や別れを象徴するモチーフが多用されている
・宮廷よりも民間や歌妓の世界で支持された柳永らしい、繊細で官能的な語り口
・現代においても普遍的な“喪失”や“悔恨”といったテーマに訴えかける名篇

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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