Distant Journey of Longing - Li Shangyin
/望远行 - 李商隐/
Distant Journey of Longing - Li Shangyin
/望远行 - 李商隐/
『望遠行(ぼうえんこう)』は、唐代末期の詩人・李商隠(りしょういん)が著したと伝えられる詩の一つですが、他の多くの“無題詩”や作品と同様に、明確な定本が失われている可能性が高いと指摘されています。現在流布している断句や題名は、後世の詩話や類書で引用された形跡をもとにしており、李商隠の真作かどうか、また原形をとどめているかについては議論の余地があります。
詩題にある「望遠行」は、“遠くを望み行く”あるいは“遠方への想いを詠む”というニュアンスを含む表現で、古来より「遠方の故人を慕う」「離れた地への郷愁」「流浪・旅愁」などを連想させるモチーフとして用いられてきました。李商隠は、晦渋で艶麗な恋愛詩や歴史と恋情を暗示する作品が多い詩人であり、本作も遠く離れた相手を想う叙情が色濃く感じられます。
上記の推定的な四句を読み解くと、「果てしない水と天」「夢に聴こえる柳の物音」「春とともに帰る燕」など、王朝期の恋詩や別離の詩に典型的な意匠が並び、春の季節感と哀愁が織り交ぜられているのがわかります。夢と現実、近くと遠く、心の通じる人のもとへ行きたくても行けないもどかしさ――そうした李商隠らしいモチーフが、まるで遠景にかすむ風景画のように描かれているのが特徴です。
ただし、こうした断片的な再構成が完全に李商隠の意図や文句を再現しているかどうかは不明であり、後世の仿作(模倣作)や誤伝が紛れこんでいる可能性も否定できません。とはいえ、詩中にあらわれる感傷的な風景や、愛する者を思う切なさの描写は、李商隠作品全般が持つ艶麗かつ晦渋な抒情性を想起させる要素を十分に含んでおり、“もし李商隠が望遠をテーマにしたなら”という想像を膨らませる上で興味深い一篇と言えます。
唐の末期から五代十国に至る混乱期の中で、多くの文献や詩が散逸・改変された事情を踏まえると、こうした断片的な形でも当時の詩情をしのぶ手がかりとして意義があるでしょう。読者は、はるかな景色を前にして言葉少なに哀愁を抱く李商隠の姿を思い浮かべつつ、断片の行間に思いを巡らせることで、より自由に解釈を楽しむことができます。
• 李商隠の詩集において定本が不明とされる作品で、後世の推定再編が数説存在
• “望遠”という題から、遠方や離別、旅愁などのイメージが連想される
• 断片的な内容ながら、水と天の果て・柳の音・帰る燕といった恋愛詩に典型的な意匠が含まれる
• 唐末の文献散逸の歴史を背景に、断片から当時の詩情を想像する楽しみがある