[古典名詩] 南園十三首(其五) - 石芒砀に込められた永遠の慟哭

Thirteen Poems from the Southern Garden (No. 5)

南园十三首(其五) - 李贺

南園十三首(其五) - 李賀

石芒砀に刻まれる歴史と慟哭の思い

君看石芒砀,掩泪悲千古。耿介何人贊,黄金台下土。
君よ見よ、石芒砀(せきぼうとう)を。涙を包みつつ、遥かなる時を嘆くのだ。その剛直なる心を、いったい誰が称えようか。結局のところ、黄金台もその下の土と化すのみ。
Gaze upon the Stone Mangdang,Where tears are stifled in lament for ages past.Who will praise such upright resolve?In the end, even the Golden Terrace becomes but earth beneath our feet.

「南園十三首(なんえん じゅうさんしゅ)(其五)」は、唐代に活躍した詩人・李賀(りが)の連作詩「南園十三首」の一編です。全体的に風変わりで神秘的な作風をもつ李賀らしく、短い詩句の中にも濃厚な歴史観や無常観が色濃く投影されています。題名の「南園」は宮廷または特定の園林を指す説もありますが、李賀自身が名付けた詩作の場である可能性もあり、明確な由来は定かではありません。

本作の中心には「石芒砀(せきぼうとう)」という固有名詞が据えられています。芒砀山(ぼうとうざん)は古代中国における地名で、漢高祖・劉邦の発跡地としても知られる場所です。歴史的な逸話を多く含むこの地名をわざわざ冒頭に据えることで、詩人は悠久の過去への思い、そして時を超えて残る悲しみを表現していると考えられます。

前半の「君看石芒砀,掩泪悲千古。」では、石芒砀を見よと呼びかけつつ、そこで抱かれる嘆きが「千古」に及ぶことが示唆されます。古代の戦乱や英雄の死、盛者必衰の歴史がこの地に刻まれているかのようなイメージを抱かせるものです。後半の「耿介何人贊,黄金台下土。」で言及される「黄金台」は、戦国時代の燕昭王が賢才を求めて築いたとされる高台のこと。多くの英雄や志士を招こうとした象徴的な施設ですが、結局はすべてが朽ちて土に帰す運命にあるという無常観が強く漂っています。

李賀は一般に“詩鬼”と称され、その作品は豪胆さや奇異さ、そしてどこか陰翳を帯びる特徴をもっています。ごく短い形式の中に、大胆な歴史への憧憬や、儚い人間の運命を強調するのが彼の詩風です。本作でも、陳腐な叙景や直接的な感傷は控え、地名や象徴的な施設名を用いて暗に深い歴史的悲哀を訴えかけています。英雄豪傑の足跡に心を寄せながらも、最後にはすべてが盛衰を経て静かに塵へと帰していく――そうした永遠のテーマを、わずか四句で強烈に読者へ訴える点に李賀ならではの力量が感じられるでしょう。

要点

・石芒砀は漢高祖の発跡地として知られ、悠久の歴史を喚起する
・戦国時代の黄金台のエピソードが、栄枯盛衰の象徴として暗示
・わずか四句で、人類の歴史に潜む無常観と慟哭を強調
・李賀特有の神秘的・幻想的な作風が、歴史への深い眼差しを際立たせる
・かつての英雄への憧憬と、最終的に誰もが土へ帰す運命への嘆き

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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