[古典名詩] ソネット第29番 - 詩の概要

Sonnet 29

Sonnet 29 - William Shakespeare

ソネット第29番 - ウィリアム・シェイクスピア

苦悩を救う愛の力を描く詩

When, in disgrace with fortune and men's eyes,
運にも人々の目にも見放されたとき、
I all alone beweep my outcast state
わたしは独りきりで自分の孤立した境遇を嘆き、
And trouble deaf heaven with my bootless cries
無益な嘆きで耳のない天を騒がせ、
And look upon myself and curse my fate,
自分自身を見つめ、運命を呪います。
Wishing me like to one more rich in hope,
より大きな希望を持つ者になりたいと願い、
Featur'd like him, like him with friends possess'd,
彼のような容姿を持ち、彼のように仲間にも恵まれたならと、
Desiring this man's art and that man's scope,
ある人の技量や、別の人の才能を欲し、
With what I most enjoy contented least;
最も楽しめるはずのものから、満足すら得られません。
Yet in these thoughts my self almost despising,
こうした思いに耽るうち、わたしは自分を軽蔑しかけますが、
Haply I think on thee, and then my state,
ふとあなたを思い出すと、そのときわたしの境遇は
(Like to the lark at break of day arising
(夜明けに舞い上がるヒバリのように
From sullen earth) sings hymns at heaven's gate;
憂うつな大地を離れ、天の門で賛美を捧げるのです。
For thy sweet love remember'd such wealth brings
あなたの甘い愛を思い返すことが、これほどの富をもたらすので
That then I scorn to change my state with kings.
王でさえ、その地位と交換する気にもなりません。

この作品は、シェイクスピアが描いた154のソネットの中でも、人生の不遇とそれを救う愛の力を対比的に表現した詩です。前半では、社会的な地位や経済的な運のなさ、そして他者からの評価に対する自分自身の絶望が綴られています。語り手は他者の才能や幸福を羨み、自己を嘆き、天をも動かせない嘆き声を上げるほどの落胆に沈んでいます。

しかし、中盤から後半にかけて、その暗い感情が一転します。愛する存在(“あなた”)を思い浮かべることで、語り手は自分の境遇を美しく感じ、自らを卑下する気持ちを捨て去るのです。その瞬間は、まるで夜明けに空へ舞い立つヒバリのように、沈んだ大地から抜け出し、天の門で賛歌を響かせるほど高揚感に包まれています。思い出すだけで豊かな喜びを得られるほどの“愛”の力が、語り手の精神を救い上げるわけです。

これは恋愛詩でありながら、人間が抱える孤独、自己否定、そして救済への願いなど、普遍的なテーマを扱っています。社会的価値観によって自分を追い詰める語り手の姿は、多くの人が抱える劣等感や嫉妬心を象徴しています。けれどもそれが、愛という個人的で内面的な力によって完全に逆転し、自身に価値を見いだせるというのが、この詩の大きな魅力です。

また、詩としての形式は英語のソネットであり、14行から成り立ち、韻律や構成に独特の美しさとリズムがあります。前半(八行目まで)で苛立ちや嘆きが描写され、中盤から終わりにかけて愛の救済を感じさせる展開になるという構成は、シェイクスピア・ソネット特有のダイナミズムを象徴的に示しています。

このように「ソネット第29番」は、外的要因による不運や自己卑下と、内的な愛の力による救いを対比させながら、人間の心の変化や希望を余すところなく描いた作品と言えます。読者は、語り手が強い孤立と自己否定に陥ったとしても、たったひとつの愛の記憶が人生を豊かに変える瞬間に触れることで、愛の持つ多層的な力や美しさを再確認できるでしょう。

要点

• 孤立や自己卑下からの救いを愛に見出す物語
• 負の感情と高揚の対比が強い印象を残す
• ソネットの形式で韻律美とテーマを巧みに融合
• 時代を超えて愛の普遍的力を語りかける詩

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