[古典名詩] ライムの木陰、わが牢獄 - 詩の概要

This Lime-Tree Bower My Prison

This Lime-Tree Bower My Prison - Samuel Taylor Coleridge

ライムの木陰、わが牢獄 - サミュエル・テイラー・コールリッジ

木陰に囚われながらも広がる自然への新たな視点

Well, they are gone, and here must I remain,
さて、彼らは行ってしまった――私はここに留まらねばならない、
This lime-tree bower my prison!
このライムの木陰こそ、私の牢獄なのだ!
I have lost
私は失ってしまった、
Beauties and feelings, such as would have been
あの散策で得られたはずの美しさや感情を、
Most sweet to my remembrance even when age
それらは年老いてからも、もっとも愛おしい思い出になっただろうに、
Had dimm'd mine eyes to blindness!
やがて目が見えなくなるほど歳を重ねても。
They, meantime,
彼らは、そんな私をよそに
My friends, whom I may never meet again,
もう再び会えぬかもしれぬ友人たちは、
On springy heath, along the hill-top edge,
弾むような草地を踏み、丘の頂を巡り、
Wander in gladness, and wind down, perchance,
歓びに満ちて歩を進め、おそらくは下へと降りてゆく、
To that still roaring dell, of which I told;
私が語って聞かせた、あの今なお轟く渓谷へと;
A delight
その喜びは
Comes sudden on my heart, and I am glad
不意に私の胸にも訪れ、私は嬉しくなる、
As I myself were there!
あたかも私自身がそこにいるような気分で。
Henceforth I shall know
これからは私は知るだろう、
That nature ne'er deserts the wise and pure;
自然は決して、賢く清らかな心を持つ者を見捨てないのだと;
No plot so narrow, be but Nature there,
どんなに狭い場所であっても、自然があるなら、
No waste so vacant, but may well employ
どんなに荒涼たる地であっても、心を満たしてくれる、
Each faculty of sense, and keep the heart
感覚のすべてを呼び覚まし、心を保ち続ける、
Awake to love and Beauty!
愛と美に目覚めた状態のままにするのだから!

「This Lime-Tree Bower My Prison(ライムの木陰、わが牢獄)」は、サミュエル・テイラー・コールリッジが1797年に作詩した作品で、友人たちと自然散策に行けなくなった自分の境遇を綴った独白詩です。原因は些細な怪我や事情で、コールリッジは屋外で楽しく歩き回る仲間を見送り、ライムの木の下に留まることを余儀なくされます。

しかし詩は、初めこそ“この木陰がまるで牢獄のようだ”と嘆く内容ではじまるものの、想像力と共感によって自らの状況を肯定的に変化させていく過程を描き出します。友が目にしているであろう絶景を想像し、その喜びを自分のものとして共鳴し始めるうちに、自然が持つ万能の癒やしや美しさを再発見するのです。さらに、狭い空間の中でも、自然に向き合う姿勢さえあれば十分に感受性を満たしてくれる――というロマン派的な思想にたどり着きます。

この詩には、同時代の詩人・学者でもあった友人たち(例えばチャールズ・ラムなど)が登場人物として想定されており、“孤独”と“共感”を二つの軸として詩が進行していきます。コールリッジは、“遠く離れていても、心を通わせていれば自然の豊かさを共有できる”と考え、“思い描く力”こそが人間に喜びをもたらすと説くわけです。

狭く閉ざされた空間を“牢獄”と嘆くところから始まりながらも、最後には自然との結びつきによって心が広く解放される様子が、作品のテーマそのものを象徴していると言えます。ロマン派を代表する詩人コールリッジらしく、実際の行動が制限されても、想像力次第で精神的自由を得られるという肯定的な結論に至る点が、この詩の魅力でありメッセージとなっています。

要点

・屋外散策を断念せざるを得なかった詩人が、仲間との共感や自然への想像力を通じて心の自由を取り戻す過程を描く。
・“この狭い場所がわが牢獄”という冒頭の嘆きから、最後には自然が持つ普遍の力を再確認するロマン派の典型的転換を示唆。
・友の喜びを我が喜びとして共感する姿勢が、自らの感受性を広げ、制限された環境を肯定的に捉え直すヒントとなっている。

楽しい時は時間が経つのが早いですね!
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