[古典名詩] 失楽園(第九巻) - 詩の概要

Paradise Lost (Book 9)

Paradise Lost (Book 9) - John Milton

失楽園(第九巻) - ジョン・ミルトン

人間の堕落が決定的に描かれる衝撃の巻

No more of talk where God or Angel GuestWith Man, as with his Friend, familiar us'dTo sit indulgent, and with him partake
神や天使が人間の客となり、友人のように言葉を交わし、一緒に時を過ごす光景――それをもはや語ることはできない。
Rural repast; permitting him the whileVenial discourse unblam'd: I now must change
田園のもてなしの中で、罪のない会話を許された日々。いま私は、物語の流れを変えなければならない。
Those Notes to Tragic; foul distrust, and breach
そこには悲劇が訪れ、不信と破れが生じ、
Disloyal on the part of Man, revolt,And disobedience: on the part of Heav'n
人間の側には裏切りと反抗、不従順が、天の側には正義の裁きが待っているのだ。
Now alienated, distance and distaste,Anger and just rebuke, and judgment given,
もはや遠くへ隔てられ、嫌悪と怒り、正当な叱責と判決が下る時、
That brought into this World a world of woe,Sin and her shadow Death, and MiseryDeath's Harbinger.
これが世界に多くの苦しみをもたらし、罪とその影である死、そして死の先触れである不幸を呼び込むのだ。
... (excerpt) ...

『失楽園』第九巻は、全十二巻からなる物語の中でももっとも重要かつ衝撃的な局面である“人間の堕落”が具体的に描かれます。ここまで、エデンに忍び寄るサタンの陰謀やアダムとイヴの純粋な生活が対比されつつ進んできましたが、この巻でイヴが禁断の木の実を食べてしまい、やがてアダムもそれに続くことで、人類が初めて罪を犯す場面がクローズアップされるのです。

冒頭で詩の語り手は、「神や天使と人間が友のように語り合い、安らかに過ごしていた日々はもう終わりだ」と告げ、物語が大きく悲劇へ向かうことを予告します。そしてサタンは蛇に身を潜ませ、イヴに近づき、巧妙に誘惑の言葉を用いて“自由意志”を囁きながら禁断の実を食べるよう唆します。その結果、イヴはサタンの言葉を信じ、罪の木の実を口にし、さらに愛ゆえにアダムも同じ罪を犯すことを選択します。

この出来事によって、楽園は穢され、アダムとイヴは“恥”や“恐怖”といった人間的感情を初めて経験します。ミルトンは、二人が罪を犯した瞬間に訪れる意識の変化や、互いを責め合うようになる様子を鋭く描き出し、“無垢”の消失がいかに人間の思考や感情を変えてしまうのかを浮き彫りにしています。ここに至って、神との間に存在していた“完全な調和”は破れ、正義の裁きが避けられないものとなるのです。

物語全体の流れを見ても、この第九巻は“失楽園”というタイトルを象徴する決定的な場面となっています。ミルトンが得意とする壮麗な言語表現で、イヴの心を揺さぶるサタンの巧妙な説得と、愛するイヴを見捨てることができず罪をともにするアダムの葛藤が強烈な印象を与えます。また、ここで二人が犯す不従順と、それによって到来する悲劇が、後の巻での“楽園追放”へと直結する大きな転機となります。

要点

• イヴとアダムが禁断の木の実を食べ、人類の初めての罪が生まれる決定的場面
• サタンが蛇の姿でイヴに接近し、巧みに誘惑の言葉を用いて“自由意志”を揺さぶる
• 愛ゆえにイヴに追従してしまうアダムの選択が、二人の無垢と調和を破壊
• “失楽園”のタイトルを具現化する、人間の堕落が象徴的に描かれ、物語は悲劇へ大きく傾く

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