Hymn to God My God in My Sickness - John Donne
病の中で神へ捧ぐ讃歌 - ジョン・ダン
Hymn to God My God in My Sickness - John Donne
病の中で神へ捧ぐ讃歌 - ジョン・ダン
「Hymn to God My God in My Sickness(病の中で神へ捧ぐ讃歌)」は、ジョン・ダン晩年の宗教詩の一つで、重病の床にあるダンが死の間際に綴ったとされる作品です。死を目前に控えた詩人が、神のもとに赴く心構えを自問自答するこの詩には、彼が歩んできた人生の苦悩や希望、そして神学的世界観が凝縮されています。
詩の冒頭から「これから聖なる部屋へ入っていく」という表現があり、それは死を通して神のもとへ向かう準備を示唆しています。ベッドに伏せる自分を地図にたとえるくだりでは、医師を“地理学者”に見立て、自身の身体を地形のように観察させることで、死へと至る“航路”が示されているとするイメージが浮かび上がります。これは“時代背景としての大航海時代”の地理的探検を、死の探求へと巧みに重ねた形而上詩特有の発想とも言えます。
さらに詩の後半では、楽園(エデン)やカルヴァリの丘といったキリスト教における象徴的な場面を引き合いに出し、“最初のアダム”と“最後のアダム(キリスト)”の二つが詩人自身の中で交わるという視点が示されます。人間としての有限性(アダム)と、救いをもたらす無限性(キリスト)の両面が、病床のダンの身体と魂の中に同時に存在するという逆説的構造が、深い宗教的感動をもたらすのです。
そして結びの部分では、十字架の茨が別の冠へと変わるよう願うことで、“主が自分を倒す(死に至らしめる)ことが実は魂の復活や救済につながる”という究極の信仰を告白します。これはダンが生涯を通じて説き続けた“死と復活のパラドックス”を象徴するもので、死を克服する一つの道として、あえて受け止めるというキリスト教信仰の核心を詩的に示しているといえます。
この詩が刊行された当時は、病と死に対する恐怖が強く、単なる悲嘆や絶望に沈む作品が多かった背景があります。しかし、ダンは死を迎えようとする最中にあっても、そこに神の計画と救済を見出そうとし、“死”を積極的に捉えています。こうした逆説こそが、ダンの宗教詩や形而上詩の特色でもあり、現代の私たちにも人生や死生観について考えさせる大きなきっかけとなり続けています。
• 死の間際に神へと向かう心情を描いたジョン・ダン晩年の宗教詩
• 医師を“地理学者”、自らを“地図”に見立て、死を航路になぞらえる形而上詩的発想
• “最初のアダム”と“最後のアダム(キリスト)”の融合によって、人間の有限性と神の無限性を重ねる
• 病と死に対する畏怖を超え、神の計画と救済を信じ抜く逆説的な信仰の表明