Dejection: An Ode - Samuel Taylor Coleridge
絶望:オード - サミュエル・テイラー・コールリッジ
Dejection: An Ode - Samuel Taylor Coleridge
絶望:オード - サミュエル・テイラー・コールリッジ
「Dejection: An Ode(絶望:オード)」は、サミュエル・テイラー・コールリッジが1802年に書き上げ、同年に初稿が出版された長めの叙情詩です。コールリッジが抱えていた個人的な不安や創作上の苦悩、さらに友人のウィリアム・ワーズワースとの詩論的交感を背景にしており、ロマン派文学のテーマである“想像力”と“自然”の関わり、そして内面の葛藤が深く表現されています。
冒頭では、古いバラッド『サー・パトリック・スペンス』の一節が引用され、新月が古い月を抱えるように見える光景が、不穏な嵐の予兆として提示されます。こうした不安げな自然の描写は、詩人自身の心情の暗さを象徴すると同時に、自然から想像力の活力を得るはずだったロマン派詩人が、その源泉を失いかけている苦悩を暗示します。
詩の中心となるのは、“情緒”と“想像力”の乖離によって生まれる絶望感です。コールリッジにとって、自然を見つめることで得られるはずのインスピレーションが、自らの内面から湧き起こらなくなっている状態は深刻な問題でした。たとえば、夜空の新月やアイオリアン・リュート(風によって音が鳴る弦楽器)といったロマン的象徴を用いながらも、それらがもたらすはずの感動や創造力が遮断されている様が如実に描かれています。
しかしながら、詩の末尾にかけては、暗澹とした心情の中にもかすかな救済の可能性や希望が感じられます。たとえば、人間同士の深い共感や優しさが、想像力の衰えを補うような役割を果たすだろうと示唆される部分もあり、コールリッジ独特の“苦難の中で見出す光”が漂っているのです。この二面性は、ロマン派詩人が抱える“自然との交感”と“孤独の苦悩”という矛盾を象徴的に示しています。
また、本作はコールリッジの個人的な悩みだけでなく、当時のロマン派の詩人たちが共通して抱いていた“自然の美と人間の感受性の間にある微妙なズレ”を映し出しているとも言われます。ワーズワースが自然と自己との有機的結合を強く表現したのに対し、コールリッジは自然と自己の間に横たわる隔たりを痛切に意識し、そこからくる孤独と失望に焦点を当てました。こうして「Dejection: An Ode」は、ロマン派文学を理解するうえで重要な一篇として高い評価を受け続けています。
・自然と詩人の内面が強く結びつくはずのロマン派的理想が崩れかける瞬間を、深い絶望感とともに表現した作品。
・想像力(創造力)の枯渇により、自然の美しさが内面の感動に結びつかなくなる苦悩が、夜空や音楽のイメージを通じて描かれる。
・暗いトーンの中にも、人間同士の共感や優しさに救いを見出す兆しがあり、コールリッジ独特の“希望への揺らぎ”が余韻を残す。