[古典名詩] 登嘉州凌雲寺閣(とうかしゅう りょううんじ かく) - 天空と長江を一望する壮麗な山寺の詩情

Climbing the Linyun Temple Pavilion in Jiazhou

Climbing the Linyun Temple Pavilion in Jiazhou - Du Fu

/登嘉州凌云寺阁 - 杜甫/

古寺の楼閣で大河と山を一望する雄大な感慨

古寺凌雲接太清,
雲にそびえる古寺は天空とつながり、
An ancient temple rises into the clouds, touching the realm of pure sky,
青山未覺世塵輕。
緑の山々はまだ俗世の塵を忘れさせるには至らない。
The verdant peaks have yet to lighten the world’s dusty burdens.
窗含遠色千峰暗,
窓からはるかを望めば、幾重もの峰が淡い影を落とし、
At the window, distant peaks cast dim silhouettes by the thousand,
殿鎖長江一鏡明。
堂の鍵は長江を映す鏡のような水面を閉じ込める。
While the main hall seems to lock in the Yangtze, gleaming like a mirror below.
荒徑多苔侵石磴,
荒れた小径には苔が生い茂り、石段を侵していき、
A neglected path overgrown with moss creeps over the stone steps,
高閣憑欄動客情。
高い楼閣の欄干に寄りかかれば、旅の心は揺さぶられる。
Leaning on the lofty railing, the traveler’s heart stirs with emotion.
更上一層看天地,
もう一段登り詰めれば、さらに広がる天と地を見渡せる。
Ascend one more level, and heaven and earth open wide before my gaze,
心隨飛鳥任縱橫。
心は飛ぶ鳥に誘われるまま、自由自在に舞い巡るのだ。
My spirit follows the soaring birds, roaming free in every direction.

この詩は、杜甫(とほ)が嘉州(現在の四川省楽山市)にある凌雲寺の楼閣に登って詠んだとされる七言律詩をイメージしたものです。嘉州は名勝や歴史の深い仏教寺院が多く、なかでも凌雲寺は近くに世界遺産として名高い楽山大仏があることでも知られています。

冒頭の「古寺凌雲接太清」は、天空と触れ合うかのように高くそびえる寺院の姿を鮮明に描き、さらに周囲の山々や長江の眺望を通じて、その地がいかに壮大で神秘的な場所であるかを強調しています。寺の窓から見渡せば幾重もの峰が重なり合い、遠方には長江が水鏡さながらに光を放つ――こうした自然の雄大さが、杜甫の心を大きく揺さぶる要因となっています。

後半では、苔むした荒れ径や高閣から見下ろす絶景を通じて、詩人自身が長い旅路や流浪の日々を振り返りつつ、深い感慨を抱く様子がうかがえます。さらにもう一段登ってみれば、天地の広大さを一段と実感し、空を自由に飛び回る鳥のように心を解き放とうとする意識が表されています。杜甫はしばしば国事を嘆き、社会的なメッセージを込める詩を残しましたが、本作のように雄大な自然と仏閣の歴史が融合する場所では、その内面の憂いや疲れが一瞬でも昇華されているようにも感じ取れます。

『登嘉州凌雲寺閣』と題されるこの詩は、あくまで杜甫の自然賛美や心境を象徴的に示した作品として理解できます。神仏への崇敬が盛んだった唐の時代にあって、険しい山岳地帯に建立された寺院の楼閣で見上げる空はとりわけ荘厳なものであり、そこに身を置く詩人は日常の諸々から解放された一瞬の安息を得たと言えるでしょう。

要点

• 嘉州(楽山)の雄大な自然と凌雲寺の高閣からの絶景を一挙に描写
• 長江と山々を見下ろす構図が、詩人の心の解放を象徴
• 苔むした古径や仏閣がもつ静謐な雰囲気が、杜甫の憂いを一時的に癒やす
• 唐代の仏教文化と風光明媚な景勝地が融合する格調高い山水詩の一例

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