碧城三首(其一) - 李贺
碧城三首(その一) - 李賀
碧城三首(其一) - 李贺
碧城三首(その一) - 李賀
「碧城三首(その一)」は、唐代の詩人・李賀(りが)が織り上げた幻想的な連作の一篇です。題名の「碧城」は文字通り“青緑色の城”を指し、具体的な地名というよりは神話的・伝説的な空間を示唆しているとされます。この詩では、夕暮れと秋の寂寥感を舞台に、猿の鳴き声や織女の機、石鯨などのモチーフが不思議な調和を見せながら展開していきます。
冒頭に登場する「十二曲闌干」は、まるで迷路のように入り組んだ欄干を想像させ、碧城そのものが現実を離れた場所であるかのような雰囲気を演出します。猿の鳴き声が響き渡り、旅人が散っていく光景は、唐詩によく見られる辺境や荒涼とした舞台を思わせながら、一方で何か超現実的な世界への入り口を感じさせるのも特徴的です。
続く二句では、織女(しょくじょ)と呼ばれる星の神話が暗示され、夜の月に照らされながらも仕事を放棄したかのような機(はた)を思い描かせます。これは、唐代の詩人たちが好んで用いた天界と人界の交錯を象徴するモチーフでもあり、李賀特有の幻想性が際立ちます。そして最後に示される「石鯨」は、固定された岩石がまるで生き物のように鱗や甲を動かしているかのような描写であり、静かな夜の水面に巨大な生き物が潜むイメージを呼び起こすのです。
李賀は短い生涯の中で、夢のような幻想世界と人間の儚さを数多くの詩に凝縮し、“詩鬼”と呼ばれました。彼の作品は、同じ唐代の詩人に比べてより大胆で、時に不気味ささえ伴うイメージが特徴です。本作もまた、夜と秋という哀愁の漂う舞台を背景に、伝説的モチーフを散りばめ、読み手を一種の幻視へと誘います。猿の声や織女の機、石鯨の動きといった要素は、いずれも日常から隔たった神秘の象徴として機能し、唐代独特の叙情と霊妙な風格を一気に味わわせてくれるのです。
・碧城という名が示す神話的・伝説的な空間
・猿の声や織女の機など、秋夜の哀愁を深める象徴的モチーフ
・岩の鯨がまるで生きているかのように動く幻想性
・唐詩特有の天地交感(天界と人界の交錯)を凝縮
・李賀の“詩鬼”たるゆえんを体感できる、濃密な叙情世界