[古典名詩] 銭塘湖春行 - 西湖の春を彩る自然の美しさを描いた白居易の代表作

A Spring Stroll by Qiantang Lake

A Spring Stroll by Qiantang Lake - Bai Juyi

/钱塘湖春行 - 白居易/

春の湖畔に息づく生命と風光を讃える詩

孤山寺北贾亭西
孤山寺の北、賈亭の西
North of Gushan Temple, west of Jia Pavilion
水面初平云脚低
湖の水面はほとんど平らで、雲は脚を垂れ低く漂う
The lake’s surface lies nearly level, with clouds drifting low at their edges
几处早莺争暖树
あちらこちらで早鶯が暖かな木を奪い合うようにさえずり合う
In several spots, early orioles vie for the warm branches
谁家新燕啄春泥
どこの家の新しい燕だろう、春の泥をついばんでいる
Newly arrived swallows from some home pick at the fresh spring mud
乱花渐欲迷人眼
咲き乱れる花々が、人の目を惑わせ始める
A profusion of blossoms nearly dazzles the beholder's eyes
浅草才能没马蹄
伸び始めた浅い草が、ようやく馬の蹄を隠すほどになった
Young grass grows just deep enough to swallow a horse’s hoof
最爱湖东行不足
とりわけ湖の東を巡るのが好きで、いくら歩いても飽きない
I most love wandering the lake’s eastern shores, never tiring of the journey
绿杨阴里白沙堤
緑の柳陰には白い砂の堤が続いている
Beneath the shade of green willows extends the white sand embankment

『銭塘湖春行』は、白居易(はくきょい)が杭州(現在の中国・浙江省)にある西湖の春景を描写した詩として知られています。題名の「銭塘湖」は西湖の古称の一つであり、この詩は、春先の湖畔の情景を生き生きと描き出す点が大きな特徴です。

冒頭の「孤山寺北 贾亭西」は、孤山寺の北側から賈亭の西側へと視線を移していく風景の描写で、読者にまず場所のイメージを提示します。続く「水面初平 雲脚低」では、水面と空とがほぼ一体化して見えるような穏やかさが強調される一方、雲の脚が低く垂れこめる様子は、春特有の湿度を感じさせる生々しい表現です。

中盤の「几处早莺争暖树/谁家新燕啄春泥」では、早春に姿を見せ始める鶯や燕が活発に動き回る様が描かれ、春の到来を実感させます。さらに「乱花渐欲迷人眼/浅草才能没马蹄」は、春の花がいっせいに咲き乱れ、視界を彩るばかりか、草の伸び具合までもが季節の進行を示唆していることを強調しています。

そして「最爱湖东行不足/绿杨阴里白沙堤」と結ぶことで、作者が特に愛着を抱く湖の東側を、名残惜しく繰り返し巡り歩く様子が伝わってきます。柳の緑陰と白砂のコントラストが美しく、杭州の風光明媚さを強調する一方で、どこか物足りなさを残したまま歩み続ける作者の心情も感じ取れます。

白居易は、民衆にも分かりやすい言葉で詩を書くことを理想としており、この詩でも余計な修飾を避けながら、限られた文字数の中で自然の息吹を見事に表現しています。当時の知識人や貴族のみならず、広く庶民にも愛されたのは、この平易ながら情景豊かな表現によるところが大きいでしょう。

また、『銭塘湖春行』は、後の中国や日本における西湖のイメージ形成にも影響を与え、西湖が“詩の舞台”として多くの文人墨客を惹きつけるようになった作品のひとつでもあります。春の生き生きとした情景の中に、自然の美しさと季節の移ろいの愛しさをこれほど端的に描き出す詩はそう多くはなく、今なお多くの人に親しまれています。

要点

・西湖(銭塘湖)の春の情景を鮮やかに描く、白居易の代表的な七言律詩
・早春の生き生きとした鳥の活動や、花と草が織りなす華やぎ
・平易で親しみやすい言葉選びによる情景描写
・作者自身が“歩き回っても飽きない”ほど愛した湖東の風光
・古来より文人たちを魅了してきた西湖の美しさを再確認させる名作

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