[古典名詩] カノニゼーション - 詩の概要

The Canonization

The Canonization - John Donne

カノニゼーション - ジョン・ダン

愛を聖なる境地へと昇華させる情熱的な詩

For God's sake hold your tongue, and let me love,
お願いだから口を挟まず、私に愛させてくれないか
Or chide my palsy, or my gout,
それができないなら、私の震えや痛風を嘲るがいい
My five gray hairs, or ruin'd fortune flout,
あるいは五本しかない白髪や、破綻しかけた財産を侮蔑するがいい
With wealth your state, your mind with arts improve,
自分の財産を増やし、教養を磨くことに励むのもよかろう
So you will let me love.
ただ、私が愛するのを邪魔しないでくれればいい
Alas! alas! who's injured by my love?
ああ、嘆かわしいことよ! 私の愛が一体誰を傷つけたというのか?
What merchant's ships have my sighs drown'd?
私の嘆息が、どの商人の船を沈めたというのか?
Who says my tears have overflow'd his ground?
私の涙で、誰の土地が水浸しになったというのだ?
When did the heats which my veins fill
私の血管を満たす熱情が、いつ
Add one more to the plaguy bill?
疫病をひとつ増やす原因になったというのだ?
Though she and I do love.
私と彼女が愛し合っているというのに。
... (excerpt) ...
...(抜粋)...
And by these hymns, all shall approve
こうした詩歌によって、誰もが認めることになるだろう
Us canonized for love.
私たちが、愛ゆえに列聖された存在であることを

ジョン・ダンの「The Canonization(カノニゼーション)」は、彼の代表作のひとつとして知られる形而上詩です。タイトルにある“カノニゼーション”とは本来“聖人の列に加えること”を指し、本詩では“愛の力があまりにも崇高であるため、二人の恋人が聖人のごとく崇められる”という大胆な主張を展開しています。

冒頭では、“私が愛に没頭することが、いったい誰に迷惑をかけるというのか”と問いかける形で始まります。社会的・経済的な価値や他人の目を気にする必要などない、という開き直りにも近い調子が示唆され、恋人同士の結びつきこそが最も尊く、俗世間の喧噪は取るに足りないという態度が貫かれます。批判に対しては「好きなことをしてくれていいから、どうか私の愛を邪魔しないでほしい」とやや挑発的かつ軽妙な語りが印象的です。

中盤では、世俗的な恋人たちとは一線を画す“私たちの愛”を描写し、肉体的な側面を超えた精神的かつ霊的なレベルで結ばれていることを強調します。ジョン・ダン特有の奇抜な比喩(“コンパス”で有名な『A Valediction: Forbidding Mourning』同様、本詩でも船や金属など多彩な例えが用いられています)を駆使し、“私と彼女”の結びつきが、時空や社会的制約を超越する様を示しています。

終盤で最も有名なのが、“私たちは愛のために列聖される”というアイロニカルでありながら高らかな宣言です。これは、敬虔な宗教的敬意を受ける“聖人”と、単なる恋人同士が同列に語られている点で、大胆な発想と言えます。ダンの詩に見られるような論理性と感情の融合(形而上詩の特徴)は、宗教的テーマと恋愛観が複雑に交錯してこそ映えるものであり、この作品にもそれが凝縮されています。恋愛を通じて俗と聖を一挙に飛び越える挑戦的な精神性が、読者に強い印象を残すのです。

要点

• 世間の批判や価値観に囚われない“崇高な恋愛”の理念
• 愛ゆえに聖性の域に達するという、逆説的で挑発的な発想
• ジョン・ダン特有の形而上詩的手法:奇抜な比喩と論理的飛躍
• 世俗的・宗教的概念を統合し、“恋愛”を究極の精神的高みへ位置付ける名作

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