Falling Blossoms (No. 1) - Li Shangyin
/落花(其一) - 李商隐/
Falling Blossoms (No. 1) - Li Shangyin
/落花(其一) - 李商隐/
この詩「落花(その一)」は、唐代の詩人・李商隠(りしょういん)が晩年に詠んだと伝えられる作品です。彼の作とされる “落花” 系列のうちの一篇で、訪れていた客が去り、小庭に咲いていた花々が乱れ散る情景を通して、春の終わりの寂しさとともに、別離の哀愁や心の痛みを表しています。
冒頭の二句「高閣客竟去,小園花亂飛」では、高い楼での交歓が終わり、客人は立ち去ってしまった後の場面が淡々と描かれ、同時に小さな庭で花びらが乱れ飛ぶさまが対比的に示されます。これがまさに“華やかな時間が終わった”という印象を読者に与え、李商隠特有の「去り際の一瞬に滲む哀情」が浮かび上がってきます。
「參差連曲港,迢遞送斜暉」の二句では、折れ曲がる港と長く遠い風景が延々と続いている中で、沈みゆく斜陽を見送る様子が描かれます。これは、恋愛詩にも、失われた時代を嘆く歴史詩にも適用される唐詩の常套イメージであり、李商隠はここで独特の視覚的コントラスト――風景の果てしなさと心の痛み――を暗示しているのです。
後半の「腸斷未忍掃,眼穿仍欲歸。」は、散り落ちた花びらを掃き集めることもできず、ただ去った人の戻りをひたすら待ちわびる姿が切々と表現されます。心が張り裂けるほどの痛み(腸斷)と、それでもあきらめきれない視線(眼穿)が、李商隠の作品特有の繊細で痛切な感情を伝えます。
結句の「芳心向春盡,所得是沾衣。」では、美しい春とともに心の香りまでも失われていく感覚が語られ、その結果として衣を濡らすのは涙だけ――という厳しい現実が突きつけられます。このように、四季の移ろいと個人の感情が絡み合うのは、李商隠の恋愛詩や別離詩の定番であり、短い詩句の中に情景と情念が深く溶け合う名作と言えるでしょう。
• 客が去り乱れ散る花びらを中心に、春の終焉と別れの哀愁を象徴
• 小庭と高閣、離れていく情景の対比が、読む者に強い寂寥感を与える
• 李商隠特有の繊細な叙情が、春と心の終わりを重ね合わせる
• 短い詩句に込められた華やかさの喪失と愛別離苦の余韻が深く胸に残る