[古典名詩] 夜泊水村(やはく すいそん) - 詩の概要

Night Mooring at a Waterside Village

夜泊水村 - 陆游

夜泊水村(やはく すいそん) - 陸游(りくゆう)

夜の舟泊まりに揺れる旅愁と故郷への切なる思い

路回溪岸不堪愁,
曲がりくねる小径と川辺を辿るうち、愁いが胸を満たす。
Winding trails along the stream’s bank deepen my heavy sorrow.
夜泊渔灯伴客舟,
夜の停泊に漁火が揺れ、旅人の小舟を照らしている。
Mooring at night, a fisher’s lantern flickers beside my guest boat.
雨打芭蕉声自老,
芭蕉の葉を叩く雨音は長く続き、もの哀しさを増してゆく。
Raindrops on plantain leaves echo on, carrying a timeless melancholy.
魂牵旧梦与谁留?
心を引き留める昔の夢は、いったい誰に託せばよいのだろう。
What remains of those old dreams that tug at my soul—who shall inherit them now?

「夜泊水村(やはく すいそん)」は、南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)が、旅の途中で川辺の村に舟を泊めた一夜の情景を描いたと伝えられる詩です。静かな水辺に揺れる漁火や、雨音にかすかに滲む旅愁を背景に、作者の内面に宿る故郷や過ぎ去った日々への想いが巧みに織り込まれています。

冒頭では、曲がりくねる小径や川沿いの景色と、それを辿るうちに募る愁いが提示されます。夜の停泊は、漁火の淡い光に照らされる小舟とともに、どこか孤独でありながら情趣を帯びた空気感を際立たせます。雨が芭蕉の葉を叩く音は、中国詩の伝統的なイメージとしてしばしば“哀愁”や“物思い”を象徴するモチーフでもあり、作者の感情にさらなる深みを与えています。

結句の「魂牵旧梦与谁留?」(昔日の夢は今どこに置き、誰に託すのか)には、歳月の流れや失われた理想を想う陸游特有の哀感がにじんでおり、人生のはかなさと同時に、かすかな未練や諦観の情も含まれています。愛国詩人としても名高い陸游ですが、こうした静謐な自然描写を通して自らの旅情や心中を描く作品では、より繊細かつ個人的な感傷が前面に表れるのが特徴です。

夜の水村の光景がもつ独特の寂しさと美しさが、読む人の情感を揺さぶり、あたかも自身が舟に揺られてしとしとと降る雨音を聞いているかのような没入感を与えてくれる作品といえるでしょう。

要点

・曲がりくねる小径や漁火、雨打つ芭蕉の葉といった情景描写が、旅愁と哀感を際立たせる
・結句の「誰に託すか」という問いが、叶わぬ思いをさらに強調
・愛国詩人の側面とは異なる、陸游の繊細な自然観察と私的な抒情性が堪能できる一篇

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