[古典名詩] 春遊(しゅんゆう) - 詩の概要

Spring Outing

春游 - 陆游

春遊(しゅんゆう) - 陸游(りくゆう)

早春の風景を巡る旅心と、胸奥に残る熱情を描き出す詩

城郭春深客思頻,微陽新雨帶輕塵。
城の内は春が深まり、旅人の想いは頻りに揺れ動く。かすかな陽光に、降りしきった雨の名残が微かな塵を帯びている。
Within city walls, spring grows profound, stirring a wanderer’s heart. Faint sun follows fresh rain, carrying a trace of dust.
百花次第迎時暖,萬木蒼茫聞鳥春。
あらゆる花が次々と咲き、訪れた暖かい季節を迎える。広く生い茂る木立には、小鳥のさえずりが春を告げている。
All sorts of blossoms unfold in turn, greeting the warming season. Amid vast greenery, birdsong announces the coming of spring.
琴佩猶懷前歲夢,風光空負少年身。
琴の音や身に帯びた飾りは、昨年の夢の名残を抱いているよう。せっかくの美しい風景も、若き日々の盛りを空しく過ごしている身には物足りない。
The tones of my zither and the ornaments I wear seem to recall last year’s dreams. Though spring scenery abounds, it feels hollow to one who has passed his youthful prime.
莫嘆離索愁無計,海角天涯義未泯。
別離と孤独を嘆いても方法はなく、遥かな地の果てにあろうとも、義の心はなお消えてはいない。
Do not lament estrangement and solitude; even to the world’s far ends, a sense of righteous purpose endures.

この「春遊(しゅんゆう)」は、南宋の詩人・陸游(りくゆう)が早春の情景を描いたとされる七言律詩です。彼の作品には、北方奪還を願う愛国的な熱情とともに、人生の哀歓や旅への思いが繊細に織り込まれています。本作では、春が深まりゆく都や郊外の様子をとおして、作者自身の胸に去来する感慨が率直に表現されている点が大きな特徴です。

冒頭二句では、雨上がりの淡い陽光と微かな塵のイメージが、旅人の思いの揺れや心の奥底にある落ち着かなさを暗示し、春の訪れを明確に意識させます。続く二句では、次々と咲き誇る花や鳥のさえずりが、読者の視界と聴覚を満たしながら、春の豊かな生命力を喚起しています。

後半で「琴佩猶懷前歲夢」とあるように、かつての夢や思い出に囚われながらも、めぐる季節の美しさに対して素直に向き合えない作者の複雑な心理が垣間見えます。また、別離や孤独を嘆きつつも、大きな義や志が自分の中で生き続けていることを最後に示唆することで、詩は哀愁の中にもどこか前を向く意志が感じられる結びとなっています。

陸游の多彩な詩作を知るうえでも、こうした比較的穏やかな春の風景描写に、彼特有の人生観や愛国的視座がうっすらと重ね合わされている点が興味深い作品と言えるでしょう。

要点

・雨上がりの微かな陽光と塵、咲き誇る花や鳥の声など、春の風物が鮮やかに描かれる
・若き日の夢を回想しつつも、現実との隔たりを強く意識する複雑な心理
・別離や孤独を抱えながらも、義や理想への思いを捨てきれない陸游の独自の詩風が感じられる

シェア
楽しい時は時間が経つのが早いですね!
利用可能な言語
おすすめ動画
more