The Prelude (Book 3) - William Wordsworth
「序曲(第三巻)」 - ウィリアム・ワーズワース
The Prelude (Book 3) - William Wordsworth
「序曲(第三巻)」 - ウィリアム・ワーズワース
ウィリアム・ワーズワースによる自叙伝的長編詩『序曲(The Prelude)』の第三巻は、第一・二巻で描かれた幼少期や青年期の自然との密着から離れ、学問の地へ移った詩人の姿が中心となります。ここでは主にケンブリッジ大学での生活が描写され、都会や田舎の情景とはまた異なる、学問の場とそこで出会う人々に焦点が当てられます。
第三巻の冒頭から示唆されるように、ワーズワースは新たな場所へ移り住む中で、いまだ心の奥底には自然の記憶を大切に抱えています。しかしながら、周囲の人々や環境が変化するにつれ、かつての素朴な田園生活とは異なる学術的、かつ社交的な刺激にさらされる日々を送ることになります。詩中の記述からは、学問を志す仲間や先達との交流を通じて知的な刺激を得つつも、教養や地位を誇示するような風潮へは一定の距離感を保っているワーズワースの姿が見て取れます。
また、彼が在学中に味わった葛藤や発見は、自然への回帰をいっそう強くする要因としても機能します。学問の世界の合理性や格式は、彼が幼少期に肌で感じた“自然の圧倒的な神秘性”とは大きく異なるものであったからです。第三巻のいくつかの場面では、都会的・知的な社交の場に身を置きながらも、どこか静かな懐かしさと共に自然のイメージを思い起こす詩人の心情が描かれ、ロマン主義特有の「内なる自然への想い」がより明確に示されています。
さらに、この巻で語られる大学生活は、ワーズワースの精神形成において重要な過程を象徴しています。都会生活や多様な学問分野との接触は、彼に新たな視野を与えつつも、幼少期から積み上げてきた“自然と魂の交わり”を根底で支え続けるものへと確信づけていくのです。学友たちとの議論や、学問の優劣では測れない“本質的な人間の品位”への言及などが、その一端を示しています。
結果として第三巻は、『序曲』という壮大な叙事詩の流れの中で、青年期から壮年期に移行するワーズワースが、学問の世界からも影響を受けつつ、“自然の霊感”との両輪で自らの詩的理念を練り上げていく姿を映し出すものです。人間の社会的・知的な活動と、自然への直観的な憧憬とを、どのように調和させるかという彼の思索が、この巻を読むうえでの大きな鍵となっています。
• 学生時代(主にケンブリッジ大学)での生活が主題となり、知的好奇心と自然回帰が交錯
• 社交や学術的刺激に触れつつも、田園の記憶や自然への想いが詩人を支え続ける
• 学問の格式と、人間の本質的な品位や素朴さの対比が印象的
• 経験の広がりにより、ワーズワースの“自然と魂の調和”というロマン主義的理念がさらに洗練される