[古典名詩] 夜宿山寺 - 短い詩に凝縮された李白の幻想世界

Night at the Mountain Temple

Night at the Mountain Temple - Li Bai

/夜宿山寺 - 李白/

深夜の高楼から星に触れんとする詩仙の想い

危樓高百尺,
危ういほどにそびえ立つ楼閣は百尺もの高さ。
A perilous tower rises a hundred feet high,
手可摘星辰。
伸ばした手が星を摘み取れそうなほどに。
One’s hand could nearly pluck the stars from the sky.
不敢高聲語,
声を張って語ることすらはばかられる。
I dare not speak in a loud voice,
恐驚天上人。
天の住人を驚かせてしまうのが恐ろしいから。
Lest I alarm the dwellers of heaven above.

「夜宿山寺」は、李白が山間の寺院で一夜を過ごした際の感動を四句にまとめた作品です。わずかに四行という簡潔な形式ながら、そこには李白特有のロマンと壮大なイメージが凝縮されています。

第一句と第二句では、“危樓高百尺”と“手可摘星辰”という対比的なイメージを通して、高くそびえる楼閣の圧倒的な高さと、その高さゆえに星にまで手が届きそうな夢想的な感覚が描き出されます。これは、単なる物理的な高さだけでなく、李白の大きな志や天界へ憧れる心をも象徴していると言えます。

第三句と第四句では、あえて声を抑える理由として、“恐驚天上人”という表現が示されます。天上に住む神仙や仙女を驚かせるほどの距離に自分が近づいている、というロマンがここに込められています。これは、夜の静寂と高楼の高さによって生まれる幻想的な感覚を際立たせていると同時に、李白がしばしば抱いていた“神仙思想”への傾倒や、現実と仙境のあわいを行き来するかのような独特の想像力を示しています。

加えて、この詩が描く場面は非常に静寂でありながら、天上との近さによる畏敬の念や、星々へ向けた熱い憧れが感じられます。わずかな語数で読者を深い神秘の世界へ誘う李白の技巧は、唐代詩の魅力を端的に示す好例でしょう。

このように「夜宿山寺」は、物理的な高さと精神的な高みを重ね合わせることで、詩人の内面にある“天への願望”や“仙界への想い”を濃縮して表現した作品です。限られた語数でいかに豊かなイメージを喚起するか、その巧みさを味わうことは、唐詩の奥深さを再確認するうえで大いに意義があります。

要点

・高楼の高さと星々の近さを通じて、詩人の壮大な志や幻想世界を象徴
・“恐驚天上人”に示されるように、神仙思想へ傾倒する李白の独特の感受性
・四句という短い形式ながらも、深い静寂と畏敬の念を描き出す詩的技巧
・唐詩が持つ言葉の凝縮感と、想像力を喚起する魅力を体現した作品

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