[古典名詩] 怨王孫(えんおうそん)(湖上風来たりて 波は浩渺) - 詩の概略と背景

Lament for Prince Sun (At the Lake, Wind Brews an Expansive Tide)

怨王孙(湖上风来波浩渺) - 李清照

怨王孫(えんおうそん)(湖上風来たりて 波は浩渺) - 李清照(り せいしょう)

湖上にそよぐ風と秋の名残を唄う、優婉なる抒情詩

湖上风来波浩渺,
湖上に吹き渡る風は、波を浩々と広げる。
Over the lake, a breeze stirs waves into vast expanses.
秋已暮,红稀香少。
秋はすでに暮れ、紅花はまばらになり、香りも乏しい。
Autumn is waning; blossoms are scarce, their fragrance dim.
水光山色与人亲,
水面の光や山々の色彩は、人の心を親しく迎える。
The shimmering waters and mountain hues greet one with intimate warmth.
说不尽,无限好。
語り尽くせぬほど、その美しさは限りない。
Countless words fail to capture their boundless splendor.
莲子已成荷叶老。
蓮の実はすでに熟れ、葉は老いて色褪せる。
Lotus seeds ripen, their leaves withering with age.
青露洗,萤灯正小。
青い露に洗われ、蛍の灯はかすかに揺らめく。
Dew of pale blue cleanses all, while fireflies glow softly in the dusk.
熏炉闲却酒尊空,
香炉は手付かずのまま、酒壷も空になってしまった。
The censer stands unused, and the wine jug lies emptied.
念侬情,今夜晓。
わが想いを巡らせれば、この夜も明けてしまうのだろうか。
Dwelling on my feelings—will dawn break again upon this night?

「怨王孫(湖上風来波浩渺)」は、宋代を代表する女性詞人・李清照(り せいしょう)の作品の一つです。題材となる湖の風景を通して、秋の訪れがもたらすもの寂しさと、そこにかすかに残る美しさが対比的に描かれています。湖の広大な波や紅花の減少、香りの衰えなど、自然の移ろいから感じられる哀感が、作者自身の内面にも通じる余韻を持って語られています。

冒頭の「湖上风来波浩渺」では、視界を覆うほどの波の広がりと、それを揺らす風の力強さが印象的です。次の「秋已暮,红稀香少」は、華やいだ夏が過ぎ去り、秋が深まることで生じる空虚さや物悲しさを端的に示しています。また、水や山が人と親しみをもって迎えてくれるように感じる一方で、蓮の花が散り、実が熟して葉が衰えていく様子からは、時間の流れとともに変わりゆく世界の姿が浮かび上がるのです。

後半には、蛍のかすかな光や空になった酒壷など、夜の深まりとともに増す静寂のイメージが強調されます。こうした自然と人の情感が交錯する構成は、李清照が得意とする手法でもあり、限りある季節の中で揺れ動く人の心を鮮明に浮かび上がらせます。最後の「念侬情,今夜晓」は、夜が明けるまでに募る思いを吐露しつつも、はかない望みや郷愁を含んだまま余韻を残す結び方となっています。

李清照の作品は、しばしば自然景観を背景にしながら、個人的な哀愁や思慕、あるいは人生のはかなさを同時に表現する点が特徴です。本作でも、湖や蓮の花といった自然の象徴をとおして、人の心が季節の移ろいと呼応する姿が巧みに描かれています。

要点

・秋の深まりを背景に、湖の風景を通じて哀感と美しさを同時に描写
・蓮の花の散りゆく姿や蛍の微光が、人の心情に繊細な余韻を与える
・李清照特有の自然と内面が交錯する構成が、儚い季節感と情の深さを際立たせている

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