[古典名詩] 好事近(こうじきん)(風定落花深) - 詩の概要と背景

A Pleasant Occasion (When the Wind Has Stilled, Fallen Blossoms Lie Deep)

好事近(风定落花深) - 李清照

好事近(こうじきん)(風定落花深) - 李清照(り せいしょう)

散る花を惜しむ春の風が誘う、淡い情と愁いの余韻

风定落花深,
風止みし後、散る花はなお深く積もり、
When the wind settles, fallen blossoms lie in deep drifts,
帘外拥红堆雪。
簾の外には、紅色の花びらがまるで雪のようにうずたかく積もる。
Beyond the curtain, red petals pile up like snow.
浅著罗裳,
薄衣を身にまとい、
Wearing only a light silk robe,
不耐五更风月。
暁に吹く風と月影の冷たさに耐えかねる。
She cannot endure the chill of the dawn breeze under the moon.
自是寻春去较迟,
もともと春を探すのが遅かったせいか、
Perhaps my search for spring began too late,
生怕多情事。
情に溺れてしまうことを、つい恐れてしまう。
Fearing too much sentiment might ensnare my heart.
屈指堪悲,
指を折り数えれば悲しみが募り、
Counting on my fingers, sorrow multiplies,
又是江头风起。
また川辺に風が吹き始めるのを感じるばかり。
And once more I sense the wind rise along the river’s edge.

「好事近(風定落花深)」は、宋代の女流詞人・李清照(り せいしょう)が、春の終わりと移ろう情感を巧みに織り込んだ詞です。題名の「好事近」は詞牌(一定の韻律形式)を示し、副題にあたる「風定落花深」が、作品を象徴する冒頭句として印象的に響きます。

この詩では、強い風が止んだ後に深く積もる花びらの情景が描かれ、春の名残を惜しむ作者の哀愁が漂います。簾の外に紅花が堆雪のごとく重なり、もはや華やかな春の盛りを過ぎ去ったことを暗示しているかのようです。さらに、薄衣で迎える明け方の寒さは、季節の変わり目に起こる心の不安や物悲しさを重ね合わせる要素として機能しています。

後半では「自是寻春去较迟(もともと春を探すのが遅かった)」という言葉によって、作者が春の歓びを見出すのに遅れをとったかのような切なさが示唆されます。そして「生怕多情事(情に溺れたくはない)」とあるように、あふれる情感に飲み込まれることを恐れる心理がほのかに感じ取れるのです。最後の「又是江头風起」は、川辺に吹き起こる風がまた新たな寂しさを呼び起こす結句であり、詩全体を締めくくると同時に、読者に深い余韻を残します。

李清照の作品には、自然描写と繊細な感情表現が密接に結びついている点が特徴です。本作も花びらや風、薄衣といった視覚的・体感的な要素を通じて、春の終わりを迎えた寂寥感を描き出しています。その背景には、政治的動乱や夫との死別など多くの悲しみを経験した李清照自身の人生が投影されており、短い詞句の中に深い感情の響きと季節感を凝縮しているといえるでしょう。

要点

・風が止んでなお深く積もる花びらが、過ぎゆく春の哀愁を象徴
・薄衣や夜明けの冷たい風が、作者のかすかな不安と悲しみを際立たせる
・春を探し求めながらも、情に溺れることを恐れる姿勢に、李清照の繊細な心理が表現されている

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