[古典名詩] 送孟東野序 - 不遇の才を送り出す韓愈の思い

Farewell to Meng Dongye: A Prose Preface

送孟东野序 - 韩愈

送孟東野序 - 韓愈

文壇の先を切り拓く友を見送る古の序文

大凡物不得其平則鳴。人不平則鳴。
およそ万物は、平らかならざれば鳴き、人もまた不満があれば声をあげるものだ。
Generally, when things lose their balance, they make sound; likewise, when people feel discontent, they speak out.
是故鶴鳴於九皋,其聲清;雞鳴於埘,其聲家。
ゆえに鶴は深い湿地にて澄んだ声を放ち、鶏は鶏小屋で家の気配を告げる。
Thus, a crane cries in the marsh with a clear sound, while a rooster crows in the coop with a homely tone.
孔子厄於陳蔡之間,而作《春秋》。
孔子は陳と蔡の間で窮地に陥りつつも、『春秋』を著した。
Confucius, caught between the states of Chen and Cai, composed the Spring and Autumn Annals nevertheless.

「送孟東野序」は、中国唐代の文人・韓愈が友人である孟東野を送り出す際に記した序文です。多くの場合「詩」ではなく散文とされますが、その筆致が美しく、また筆者の文学観・人間観が透けて見える名文として長らく愛読されています。序文の主題は、才能ある者が不遇な状況にあっても、なお声を上げる意義と、不平に満ちた境遇がむしろ創造性や文才を高める可能性についての考察です。

「大凡物不得其平則鳴。人不平則鳴。」という冒頭の一節は、万物が理不尽や不満を抱えたときにこそ声をあげる、という人間や自然の普遍的な摂理を示しています。韓愈は、孟東野のような才能を有しながら思うように評価されない友人を激励し、不遇に耐えつつも書をなし声を上げることの大切さを説いているのです。具体的な例として孔子を挙げ、厳しい境遇でもなお名著を著すという姿勢は、逆境の中でこそ真の文学や哲学が生まれるとする韓愈の思想を雄弁に物語ります。

また、序文全体を通して読み取れるのは、韓愈自身もまた度重なる左遷や時流との対立を経験してきたがゆえに、不遇の才が光りを放つ瞬間をよく理解していたという点です。朝廷での栄達や平穏な境遇だけでは成し得ない仕事がある、という信念が示され、そこからは、周囲の評価や地位に左右されず自分の書きたいものを追求せよというメッセージが読み取れます。逆に言えば、声を上げるべき時に沈黙してしまえば、才能が埋もれ、真に価値あるものを世に残せないという危機感が根底にあると言えるでしょう。

孟東野が旅立つにあたり、このような序文を書き残すことは、単なる別れの挨拶ではなく、韓愈の文人としての精神や友情の深さの表明にもなっています。才能に恵まれながら報われない友人を送り出す韓愈の思いは、後世の文人や詩人にも大きな影響を与えました。その言葉には、環境に翻弄されず信念を貫くことでこそ文学は生き続ける、という力強いメッセージが漲っています。

要点

・不遇の状況こそが人の才を磨き、声を上げる意義を生む
・孔子の例を通して、逆境下でも学問や文学が花開く可能性を強調
・韓愈自身も左遷など苦境を経験し、境遇に嘆くのではなく創作へ昇華
・単なる送別の辞ではなく、友情と文才への深い敬意と激励の言葉
・後世の文人たちにも影響を与えた、逆境を肯定する文学観の一典型

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