Staying Overnight at the Northern Village of Mount Zige - Bai Juyi
/宿紫阁山北村 - 白居易/
Staying Overnight at the Northern Village of Mount Zige - Bai Juyi
/宿紫阁山北村 - 白居易/
『宿紫閣山北村』は、白居易が山あいの小さな村で一夜を過ごした様子を描いた詩とされます。周囲を濃密な山雲が覆い、世間から隔絶されたように感じる深山に泊まる体験は、都会から離れた静寂と自然の大きさを再認識させるものです。作中では、里の老人との交流や、夜の松林を照らす手灯、そして山の峰にかかる月の光といった情景が、素朴ながらも豊かな奥行きをもって描かれています。
第一句の「野老相逢問客程」では、山の奥で暮らす老人が旅人の行程を問いかける場面が示されます。都会とは違い、人通りの少ない山道において旅人を見かけるのは珍しい出来事であり、そこから自然なかたちで言葉が交わされるのでしょう。続く「山雲深處宿誰榮」にある“誰榮”は、“いかにも名誉である”という意味合いを含み、山深い場所に泊まることへの特別感を暗示します。
夜の情景を描く後半、「夜來松徑攜燈立,笑指前峰月正明」では、山村らしい静寂のなか、松林の小道にわずかな光を携えて佇む姿が映し出されます。その中で、笑みを浮かべて遠方の峰を指すと、そこにはくっきりとした月が照らしている――という絵画的な構図が生まれます。都会の喧騒を離れてこそ、自然の美しさと静けさがいっそう鮮やかに心に訴えてくるのでしょう。
白居易は広く庶民の暮らしに目を向ける社会性の強い詩ばかりでなく、こうした旅や山居の情景を素直に描写する叙情詩も多く残しています。本詩のようにあまり技巧を凝らしすぎない、素朴でわかりやすい言葉選びによって、読者は詩人のまなざしを通じて旅先の山の夜気を共体験できます。この短い詩行の中に、山に深く分け入ったからこそ味わえる一種の神秘感や、地元の人々との触れ合いからにじみ出る温かさが凝縮されているのです。
実際の史料や原文の伝承が限られている場合もありますが、こうした山里に宿るエピソードは中国詩の伝統の中で頻繁に取り上げられるテーマでもあります。白居易は現実社会を鋭く批判する視点を持つ一方で、旅や山水を前にするときは純粋にその美しさや人情に感動し、それを端的な表現で詩に昇華してきました。『宿紫閣山北村』も、まさにそんな彼の作風の一端をうかがえる一篇といえます。
・山中での一夜を温かく、かつ静謐に描く叙情性
・老人との気さくなやりとりに象徴される山里の日常
・夜の松林と明るい月の光とのコントラストが鮮やか
・白居易の平易な言葉遣いが生む、詩情あふれる山村の風景
・旅と自然、そして人との出会いを素直に謳う姿勢が印象的