[古典名詩] 埋もれし誓い (THE UNDERTAKING) - 詩の概要

The Undertaking

The Undertaking - John Donne

埋もれし誓い (The Undertaking) - ジョン・ダン

秘めたる勇気と愛の真髄を映す詩

I have done one braver thing
私はかつて、人々が称える英雄たちの業績をも超える、ある勇壮な行いを成し遂げた
Than all the Worthies did;
それは、あらゆる武勲に勝るものだった
And yet a braver thence doth spring,
だが、その行いからは、さらに勇壮なものが生まれてくるのだ
Which is, to keep that hid.
すなわち、その秘密を隠し通すという行為が
It were but madness now to impart
今になってそれを人に伝えるなど、狂気の沙汰にほかならない
The skill of specular stone,
鏡石(specular stone)の加工技術を人に教えるようなものだから
When he which can have learn'd the art
その技術を修得しようと試みた者は、
To cut it, can find none.
結局、その石自体が見つからず手が打てなくなるだろう
So, if I now should utter this,
だからもし私が、今あえてこの事実を明かしたら、
Others (because no more
他の者たちは(これ以上、
Such stuff to work upon, there is)
同じ材料を扱うすべがないゆえ)
Would love but as before.
結局、これまでどおりの愛しか持ち得ないだろう
But he who loveliness within
しかし、内なる美を見出せる者は、
Hath found, all outward loathes,
表面的なものをすべて忌避するようになる
For he on honey-dew hath fed,
なぜなら彼は甘露のように甘美なものを味わい、
And drunk the milk of Paradise.
天国の乳を飲んだ者だからである

「The Undertaking(埋もれし誓い)」は、ジョン・ダンの形而上詩の中でも“秘めたる行為”をあえて語らず隠し通すことの価値を歌った作品です。冒頭では「過去の英雄たちが成したことを凌ぐ勇壮な行いを成し遂げた」と語りながら、その“何を成し遂げたか”を明かす代わりに、「その偉業を語らずに秘密にすることこそ、より大きな勇壮だ」としています。ここには、愛や美をめぐる内面的な“真の価値”を軽々しく外界へ晒すべきではない、というダンの思想が反映されていると読めます。

詩中では“specular stone(鏡石)”という比喩を用い、それを加工する技術を教えようとしても肝心の石がなければ無意味だと暗喩します。同様に、愛の本質や真の美も、必要とされる“素材”や“理解”がないところにただ言葉で伝えようとしても、結局は伝わらないという主張がにじみ出ます。軽々しく語られる愛は、深遠な内面をともなわず、かつてと同じ平凡な愛情にとどまってしまう、というわけです。

終盤では、“内なる美”を得た者は外面の飾りに惑わされず、本質的な甘露や“天国の乳”を味わう境地に至ると説きます。これはダンが好んで使う、俗世を越えた霊的な充足感の隠喩です。詩全体を通じて、“語らない愛”の尊さや、“秘めた価値”を知る人間のみが得られる至高の悦びを強調しているのが、この作品の大きな特徴といえるでしょう。

要点

• 愛や偉業の“秘密を明かさない”ことで、真価を保つという逆説をテーマに
• “specular stone”の比喩で、理解や素材がなければ伝わらない深い価値を暗示
• 軽々しく言葉にされる愛ではなく、内面にこそある美を希求するダンの思想
• 形而上詩らしい論理的飛躍と逆説を通じ、読者に“隠された崇高”を考えさせる名作

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