Goodfriday 1613 Riding Westward - John Donne
聖金曜日1613年 西へ向かう道中 - ジョン・ダン
Goodfriday 1613 Riding Westward - John Donne
聖金曜日1613年 西へ向かう道中 - ジョン・ダン
「Goodfriday, 1613. Riding Westward(聖金曜日1613年 西へ向かう道中)」は、ジョン・ダンがイースター前の聖金曜日に馬で西へ向かう旅の途中、キリストの受難を想いつつも物理的には“東”を背にしているという矛盾を描いた詩です。もともとこの日はキリストが十字架にかけられた“受難の瞬間”を瞑想し、敬虔な気持ちで東方(エルサレムのある方向)に心を向けるべき日とされます。しかし、ダンは現実の行程が自分を“西”へ動かすという事情との間に板挟みになり、その分裂と葛藤を詩的に表現するのです。
詩全体を通じて、ダンは“魂”を“天球(スフィア)”にたとえるなど、ルネサンス期の天文学的世界観を参照しながら、内面の動きと外的現実の衝突を印象深く描き出します。魂が本来目指すべき東(神や救い)に向かうはずが、世俗的な事情によって西へ行かねばならない現状は、信仰者としての理想と現実の相剋そのものです。そこでダンは、ただ身体が西へ行くのであって、魂は東を慕うという二重構造を示唆し、人間の意思や信仰がいつも外部の環境によって左右されるのではなく、最終的には“神へ心を向けることができるのだ”と確信を語ろうとします。
この詩が書かれた背景には、ダンの複雑な宗教観や政治的・社会的状況が関わっています。彼はカトリックの家系に生まれながらも、時代の流れや個人的な葛藤を経てイングランド国教会(聖公会)の司祭となりました。そのため、宗教行為の形式や義務感だけでなく、個人的な良心や精神的経験としての信仰を深く追求し、しばしばこうした内面の“ジレンマ”を詩で表現します。
「Goodfriday, 1613. Riding Westward」においては、信仰心と世俗的行動が直接にぶつかり合うシーンを“旅”に重ね合わせ、方向の比喩(東=神、西=逆向き)で浮き彫りにすることで、読者にも強烈な印象を与えます。結果的に、身体がどちらへ向かおうと、魂が神へと向かわんとする意志さえあれば、真の祈りと救済は成立すると示唆しているのです。ダン特有の逆説的ロジックや形而上詩的比喩が冴えわたり、深遠な精神世界を巧みに言語化した一篇といえるでしょう。
• 聖金曜日に“東”を仰ぐべきところ、“西”へ向かう旅という矛盾を題材に、信仰と現実の板挟みを描く
• 魂を“天球”に見立て、天文学的世界観と宗教的テーマが融合するダンの形而上詩的手法
• 物理的には西へ進んでも、内なる魂は神のある方向へ向かおうとする意志を強調
• ダンの複雑な宗教観や内面の葛藤が、宗教詩としての深い思想性を際立たせる代表的作品