沈园(其二) - 陆游
沈園(しんえん)(其の二) - 陸游(りくゆう)
沈园(其二) - 陆游
沈園(しんえん)(其の二) - 陸游(りくゆう)
宋の詩人・陸游(りくゆう)は、その生涯において元妻・唐琬(とうえん)との悲恋を深く胸に抱え続けたと言われています。二人がかつて愛を育んだ場所である沈園(しんえん)は、陸游の多くの詩に登場する特別な情景として知られています。本作「沈園(其の二)」は、彼が晩年に沈園を再び訪れ、すでに四十年という長い時が過ぎ去ったことを回想しながら、依然として消えぬ哀しみを吐露した名作です。
一行目では、「夢断香消四十年」と、かつての夢と甘い香りが断ち切られてから四十年という月日が経過したことを嘆き、失われた恋の切なさを暗示します。二行目の「沈園柳老不吹綿」は、若き日には瑞々しかった柳もいまや老いて、綿毛を飛ばすことさえしない様子に、過ぎ去った青春や二度と戻らない幸福が投影されています。
後半では、「此身行作稽山土」と老境を見据えた作者自身が、いつか土に帰る運命を受け入れつつ、それでも「猶吊遺踪一泫然」と、かつて残された思い出の痕跡に涙を禁じ得ない様子が鮮やかに描かれます。こうして詩全体は、過ぎ去った歳月とともに失われた愛の残影が、いまなお作者の胸に燻っていることを示唆していると言えるでしょう。
沈園は陸游の愛国詩とは異なる、より私的な抒情詩の世界を象徴する場所であり、ここには政治的理想を超えた個人的悲哀と悔恨が凝縮されています。唐琬との離別を強いられ、再会を果たした際に記したとされる悲恋譚が、陸游の人生観や筆致に深い陰影を与えており、その余波は晩年になっても消えることなく、こうした切々たる形で詩に刻まれました。
・四十年という長い歳月を経ても消えない、かつての恋への哀惜の念
・沈園の老いた柳や薄れた夢のイメージが、取り戻せない過去を強調
・公的な愛国詩を数多く残した陸游の、きわめて私的な思いが凝縮され、作品に深い叙情性と哀愁をもたらしている