[古典名詩] 蝶恋花(ちょうれんか)「伫倚危楼风细细」 - 詩の概要

Butterfly Loves the Flower (Standing by the Tall Tower in a Gentle Breeze)

蝶恋花(伫倚危楼风细细) - 柳永

蝶恋花(ちょうれんか)「伫倚危楼风细细」 - 柳永(りゅう えい)

高楼からの春愁と深き恋情を詠む宋代詞の名品

伫倚危楼风细细,
高い楼にもたれ立ち、微かな風を感じる。
Leaning against a lofty tower, I feel the gentle breeze drifting by,
望极春愁,黯黯生天际。
尽きぬ春の憂いを見渡せば、かすかな暗さが空の果てに立ちこめる。
Gazing at endless spring sorrow, a dim melancholy emerges on the horizon.
草色烟光残照里,
草の緑が霞む光に染まり、夕陽の残照に映える。
In the lingering dusk, grass is suffused with a hazy glow,
无言谁会凭阑意。
黙したまま欄干に寄りかかる——この想いを誰が知ろう。
Silent, I lean against the balustrade—who could fathom these feelings?
拟把疏狂图一醉,
思い切って奔放に酔ってみようかとするも、
Resolved to lose myself in reckless revelry and wine,
对酒当歌,强乐还无味。
杯を手に歌を詠んでも、力づくの楽しみは空しく味気ない。
Though I raise my cup and sing, forced merriment remains hollow.
衣带渐宽终不悔,
痩せ細るばかりの身を惜しまぬほど、
My garments grow loose, yet I do not regret it,
为伊消得人憔悴。
あの方のためにやつれていくことも厭わない。
For the sake of that beloved, I would wither away without complaint.

「蝶恋花(ちょうれんか)『伫倚危楼风细细』」は、北宋を代表する詞人・柳永(りゅう えい)の名篇の一つです。同じ詞句で「凤栖梧(ほうせいご)」という曲牌(詞の形式名)で伝わることもありますが、いずれも冒頭の「伫倚危楼风细细」が大変有名です。

作品の冒頭では、高楼に佇む主人公が、微かな風を感じながら春の愁いに胸を満たされる情景を描写します。「望极春愁,黯黯生天际」は、広大な空に行き場のない思いが重なっていくさまを示し、春本来の華やぎとは裏腹な深い憂鬱を強く印象づけます。

また、「草色烟光残照里、无言谁会凭阑意」といった視覚的かつ叙情的な表現によって、夕陽の光に染まる草や朧(おぼろ)な景色を背景に、主人公が口を閉ざしたまま欄干に寄りかかる姿が浮かび上がります。ここには、張り詰めた思いを秘めながら語る術を持たない切実さが凝縮されており、読み手の共感を呼び起こすでしょう。

後半の「拟把疏狂图一醉,对酒当歌,强乐还无味」は、どうにかして気を紛らわせようと酒宴に興じようとするものの、心ここにあらずで楽しみきれないもどかしさを表しています。現実から逃れようとする一方で、逆に虚しさを際立たせる結果となっているのです。そこから結句「衣带渐宽终不悔,为伊消得人憔悴」に至っては、さらに踏み込んだ恋心の切実さを示し、あの人のために身が痩せ細ろうとも後悔などないと語ります。

この結びの二句は、後世の文学や日常表現にまで取り入れられるほど有名となり、恋愛や相思の深さを示す慣用句のように使われることさえあります。柳永の作風は、官僚貴族社会というよりも民間や歌姫たちの間で愛唱された背景があり、率直な情感表現や甘美なリズム感をもつ詞が多いのが特徴です。本作もそうした柳永の魅力を余すことなく伝えており、短い詞の中に濃密な恋情と春の愁いが見事に交響しています。

要点

・冒頭の情景描写で、楼上に佇む主人公の春愁を鮮烈に示す
・夕陽に染まる草の色と微かな風音が、寂寥感を一層高める
・強制的な酒宴の楽しみは空しく、深い恋情から逃れられない心情を浮き彫りに
・「衣带渐宽终不悔,为伊消得人憔悴」の名句が、献身的な恋の深さを端的に表す
・柳永特有の美しい韻律と素直な叙情が、宋代詞の魅力を余すところなく伝える

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