[古典名詩] 酬楽天 揚州初逢席上見贈(しゅうがくてん ようしゅうではじめてせきじょうにほうし、みぞかにおくられたるを) - 詩の概要

A Reply to Bai Juyi at a Banquet in Yangzhou

酬乐天扬州初逢席上见赠 - 刘禹锡

酬楽天 揚州初逢席上見贈(しゅうがくてん ようしゅうではじめてせきじょうにほうし、みぞかにおくられたるを) - 劉禹錫(りゅう うしゃく)

左遷の苦難と旧交を懐く思いを詠んだ情熱の一篇

巴山楚水凄凉地,
巴山(はざん)や楚水(そすい)のあたりは物寂しく、
In the lands of Mount Ba and the waters of Chu, a deep desolation prevails,
二十三年弃置身。
二十三年もの間、世に捨て置かれた身である。
For twenty-three years, I have been cast aside by the world.
怀旧几回凭涕泪,
旧き友や日々を思えば、何度も涙にすがるばかり。
Whenever I recall the past, tears are my sole reliance time and again.
流年别是惊心。
流れゆく歳月はいよいよ心を驚かせる。
The passing years startle my heart even more.
自从雪里歌声断,
雪深き日、かの歌声が途絶えて以来、
Ever since the singing ceased amidst the winter snows,
不是阳春曲里闻。
もはや陽春の曲の中で聞くものではなくなった。
I no longer hear it in the melodies of the bright springtime.
折柳何须苦吟断,
柳を折り、なにゆえ切々と詩を吟ずるのか、
Why lament so poignantly while breaking the willow branch?
莫教离恨上眉颦。
離別の恨みを、そのまま眉をひそめて刻ませることはないように。
Do not let sorrow for parting so deeply furrow your brow.

「酬楽天 揚州初逢席上見贈(しゅうがくてん ようしゅうで はじめて せきじょうにほうし みぞかにおくられたるを)」は、唐代の詩人・劉禹錫(りゅう うしゃく)が、友人である白居易(号:楽天)から贈られた詩へ応じた作品です。題名の「酬楽天」は、白居易に対する返礼(酬答)を意味し、「揚州初逢席上見贈」は、揚州の宴席で久しぶりに出会った際、白居易から詩を贈られたことを指しています。

詩の冒頭では「巴山楚水」の寂寥感が強調され、二十年以上にもわたる左遷生活の孤独や落魄がにじみ出ます。巴山と楚水はいずれも当時の辺境・僻地を象徴し、官位を追われた詩人がいかに遠く隔絶した地で日々を送っていたかが伝わってきます。その苦難や悲しみは、「怀旧几回凭涕泪」というフレーズによって、かつての交友や栄光を思い返すたびに涙を流さずにはいられない心情として描かれます。

中盤では「流年别是惊心」という言葉で、長い年月が過ぎ去ったことへの驚きや、人生の無常を深く嘆いています。劉禹錫は、朝廷から不遇の扱いを受けながらも、友人たちの支えや詩作への情熱を糧に生きてきました。彼の詩作には、そうした逆境の中でもなお燃え上がる精神性と、友情への思いが色濃く表れています。

後半の「雪里歌声断」や「不是阳春曲里闻」は、華やかな春の歌舞のような麗しさを失った状況や、かつて交わした高雅な遊興が途絶えた悲哀を示唆するイメージです。それでもなお、詩の結びでは「折柳何须苦吟断,莫教离恨上眉颦」とし、離別や失意を深く嘆きすぎて自らを追い詰めるのではなく、あくまでも前を向くようにと自戒するかのような響きで終えられています。

このように、左遷や官職の変遷が激しかった唐代の現実を背景に、劉禹錫と白居易の友情が詩の大きなテーマとして感じられる作品です。題名からもうかがえるように、本来は白居易の贈り詩に対する返歌という形式ですが、単独の詩としても、人生の浮き沈みや離合の中での悲喜を鮮やかに映し出しており、今なお多くの人々の心を打ち続けています。友人との再会を喜びつつ、再び離れ離れになるかもしれない運命をどこか悟るような視線が、詩全体に漂い、読む者をしみじみとした感慨に誘うのです。

劉禹錫は官僚としての起伏の激しい人生を送りながらも、苦難の地で文人としての感性を磨き上げました。彼の作品には闊達さや含蓄のあるユーモア、また時代に対する批判的精神など、複層的な魅力があふれています。本作もまた、そうした内面の強さと穏やかな情緒が融合した典型的な一篇であり、唐詩の枠を超えて、友情や人生の哀歓といった普遍的テーマを伝えてくれる名作といえるでしょう。

要点

・巴山楚水という辺境の地を背景に、左遷の悲哀と友情が交錯する世界観
・伝統的な酬答詩の形式を通じ、白居易との友情が際立つ
・秋や冬といったイメージを用いつつ、失意の中でも前向きな姿勢を示唆
・短い詩句の中に人生の浮き沈み、無常観が凝縮
・情感豊かな描写を通して、読者に深い共感と余韻を与える名作

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