[古典名詩] 「ナースの歌（無垢）」 - 穏やかな夕暮れに響く子どもたちの声

この「ナースの歌（無垢）」は、ウィリアム・ブレイクの『無垢の歌（Songs of Innocence）』に収録されている詩の一つで、子どもたちを見守る乳母（ナース）のまなざしを通じ、子どもと自然が織りなす調和と喜びを描写しています。作品全体に漂うのは、日が暮れゆく中でもなお遊び続けたいと願う子どもたちの声と、その無邪気さを受け止めながらも、適切な時に休ませようとする保護者の優しい姿勢です。

冒頭で子どもたちの笑い声が聞こえるとき、乳母の心が安らぐという場面が示されます。これは、子どもの元気な声が大人の心に与える活力と癒しを象徴しています。次いで「そろそろ日も沈んだから帰りましょう」と促す乳母に対し、「まだ明るいよ、寝るなんて嫌だ」と子どもたちが反発する対話が続きます。ここでは、子どもの好奇心や遊びへの欲求が自然と一体になっている姿が印象的です。

乳母は最終的に子どもたちを許し、「光が消えるまで遊んでから、家に帰って寝なさい」と語ります。その際の「それならいいわ、行っておいで」という受容の態度は、ルールや時間の管理をしつつも、子どもの希望をできる限り尊重しようとする大人の愛情を示しています。最後に子どもたちの歓声が丘にこだまし、彼らの生命力が周囲の自然にまで広がるように描かれている結末が、読む者に温かな余韻を残します。

この詩を読むと、同じ『無垢の歌』に収録された他の作品にも見られるように、ブレイクが自然や子どもを神聖な存在と捉えていることがわかります。子どもと自然はともに純粋で自由なエネルギーに満ちており、それに関わる大人の視点は、慈しみと保護の精神に貫かれているのです。一方、ブレイクが『経験の歌（Songs of Experience）』で見せる、社会的な制約や苦悩、偽善などとは対照的に、この詩では無邪気さと穏やかさが強調されます。こうした「無垢」と「経験」の二面性こそが、ブレイクの詩作における大きなテーマとなっています。

「ナースの歌（無垢）」は、子どもたちが持つ自然な欲求と、それを温かく受け止める大人の視線を描くことで、人間存在における素朴な幸福の可能性を提示する詩といえます。現代においても、子どもを取り巻く環境や教育の在り方を考える上で、柔らかく優しいヒントを与えてくれるでしょう。