[古典名詩] 觀刈麥 - 農民の過酷な労苦を鮮やかに描いた白居易の社会性詩

Watching the Wheat Harvest

Watching the Wheat Harvest - Bai Juyi

/观刈麦 - 白居易/

麦刈りの情景に映る農民の労苦と社会批判

田家少閒月
農村では、ゆっくり過ごせる月はほとんどなく
In the countryside, there is hardly a month of leisure
五月人倍忙
とりわけ五月には、人々の忙しさは倍加する
Especially in the fifth month, everyone’s labor intensifies
夜來南風起
夜になると南から風が吹き起こり
At night, a southern breeze stirs the air
小麥覆隴黃
麦畑は実って黄金色に覆われる
The wheat fields turn a golden hue upon the ridges
婦姑荷簞食
嫁ぎ先の女性と姑が、編み籠に食べ物を背負い
Wives and mothers-in-law carry baskets of food
童稚攜壺漿
子どもたちは水筒を手にして
Children bring along jars of drink
相隨饋田去
そろって田んぼへと差し入れを運び
Together, they head to the fields to deliver provisions
丁壯在南岡
壮年の男たちは南の丘で作業に精を出す
While the able-bodied men toil on the southern slopes
足蒸暑土氣
足の下では灼熱の大地の気が立ちのぼり
Their feet are scorched by the sweltering earth’s vapors
背灼炎天光
背中には焼けつくような真夏の陽光が照りつける
Their backs seared by the blazing summer sun
力盡不知熱
力を振り絞り疲れ切って、もはや暑さも感じない
Exhaustion dulls their senses, heat scarcely registers
但惜夏日長
ただ、長い夏の日を惜しんで働き続けるのみ
All they heed is the lingering length of the summer day
復有貧婦人
さらに貧しい身なりの女がひとりいて
Moreover, there is a poor woman among them
抱子在其旁
赤子を抱いて、すぐそばに立ち尽くしている
Clutching an infant at her side
右手秉遺穗
右手には落ち穂を拾い集め
In her right hand, she grasps the scattered stalks of wheat
左臂懸敝筐
左腕にはぼろぼろの籠を下げている
While an old, tattered basket hangs from her left arm
聽其相顧言
耳を澄ますと、彼女たちが顔を見合わせて話しているのが聞こえる
I strain to hear their hushed conversation
聞者為悲傷
それを聞くと、胸が痛むほどの哀しみを覚える
And what is said moves the listener to sorrow
家田輸稅盡
家の田は税でほとんど取られ
All their family land is lost to heavy taxes
拾此充饑腸
こうして落ち穂を拾っては飢えを凌ぐしかないのだ
So they gather leftover grain to stave off hunger
今我何功德
(作者自身は)自分になんの功徳があるだろう
As for me, what merit do I truly possess?
曾不事農桑
農耕や養蚕の苦労に手を貸したこともないというのに
I’ve never labored in the fields nor in silk production
衣食取自此
にもかかわらず、衣も食も皆、この人々の働きによって成り立っている
Yet my clothing and food come solely from their toil
力耕誰最忙
いったい誰が最も苦労を重ねているのか
Who is truly bearing the burden of hard labor?
念此私自愧
そんなことを思うと、胸の奥でひそかに恥じ入るばかりだ
Reflecting on this, I feel a private sense of shame
盡日不能忘
終日その想いが頭を離れない
All day long, I cannot forget

『観刈麦(かんばいばく)』は、白居易が農村の実情を目の当たりにして書いた社会派の詩として知られています。唐代の華やかな宮廷や官僚層とは異なる、農村の厳しい生活をじかに捉えることで、そこに潜む貧困や税負担の過酷さを浮き彫りにしました。

冒頭の「田家少閒月、五月人倍忙」は、農村の日常が常に忙しく、特に五月は麦の収穫期で普段以上に追われることを端的に示しています。夜風や黄金色に波打つ小麦の描写は一見すると美しい農村風景を思わせますが、続く場面では婦人や子供たちまでも総出で田畑を支えなければならない苦労が伝わってきます。

詩の中盤には、赤子を抱える貧しい女性が、落ち穂を拾い集めて家族を養うしかない実情が生々しく描かれます。収穫の後に残った微々たる穂を頼りに飢えをしのぐ姿からは、富を支配する階級と農民の格差、税の重圧など、当時の社会構造が浮き彫りになります。この女性の姿は、詩人のみならず当時の読者にも強い衝撃を与えたことでしょう。

白居易自身は官僚としての生活を営みつつも、ここでは“自分は農作業に関わらず衣食を得ている”という事実を思い返し、激しい恥辱感を覚えます。この内省こそが詩の結末に至る心情の核心であり、“労苦から遠い自分”と“疲弊する農民”との落差を自覚し、その構造がもたらす不公平を強く痛感しているのです。

当時の唐朝において、社会的・政治的な風刺や批判を直接的に表現するのは必ずしも容易ではありませんでした。にもかかわらず白居易は、こうした詩を通じて農民の惨状を訴える姿勢を示しています。彼の作品は平易で分かりやすい表現を多用し、当時の官僚や知識人のみならず庶民にも届きやすいものでした。そのため多くの人々が共感を寄せ、後世においても詩の名作として愛読されています。

『観刈麦』は、美しくも苦しい農村の現実と、そこに生きる人々への詩人の共感と自責の念が、端的かつ深い余韻をもって描き出された一篇です。社会的なテーマを扱いながらも、叙情性を失わない白居易の手腕を示す代表作ともいえます。

要点

・農村での麦刈りの忙しさを通じて、農民の厳しい生活を凝視
・貧しい女性が落ち穂を拾う姿に映し出される社会の不公平
・作者自身の内省と恥じらいの感情が詩の終盤で強調される
・平易な言語表現と強い社会意識が融合した白居易の作風
・読後、労苦に支えられた衣食について改めて考えさせるメッセージ性

シェア
楽しい時は時間が経つのが早いですね!
利用可能な言語
おすすめ動画
more