[古典名詩] 玉女摇仙佩(ぎょくじょようせんはい)「佳景无时」 - 詩の概要

Yu Nu Yao Xian Pei (When Lovely Scenes Are Absent)

玉女摇仙佩(佳景无时) - 柳永

玉女摇仙佩(ぎょくじょようせんはい)「佳景无时」 - 柳永(りゅう えい)

春の盛りと哀愁が交錯する雅なる宋詞

佳景无时,掩重门、柳困花疏春晚。
佳き景色の時は過ぎ、重い門を閉ざして、柳は弱り花はまばらに、遅い春が訪れる。
No time for splendid sights; heavy gates stay shut, willows droop and blossoms thin—late spring arrives.
愁绪难禁,谁为寄、此情千片。
尽きせぬ憂いは胸を塞ぎ、誰に託そうか、この千々に乱れる想い。
My heart’s burden of sorrow cannot be contained; to whom shall I entrust these scattered emotions?
飞絮随风,盈盈暗处,曲槛卷帘清怨。
風に舞う柳絮が、薄暗いあたりを漂い、曲がった縁側と巻き上げた簾に、かすかな嘆きを溶かす。
Drifting catkins float in twilight’s hush; around a curving veranda, half-raised blinds carry muted laments.
一线柔肠谁解?但凝眸、旧梦难辨。
か細い恋の情を誰が理解しよう、ただ目を凝らし、古き夢の輪郭さえ覚束ない。
Who could fathom my fragile yearnings? I only gaze on, lost in a dream whose contours fade.
微雨洗春山,隐隐晓寒添怨。
細雨が春の山を洗い、薄明の寒さがさらに嘆きを深める。
A gentle rain cleanses the spring hills, faint morning chill intensifying my sorrow.
离思更苦,弹指华年似转。
別れの思いはいっそう苦しく、指を弾く間に華やかな日々は移り去る。
Parting thoughts grow bitter; in a mere flick of the fingers, our splendid days slip away.
纵有千般风月,寂寞同谁言遍?
仮に風月の美があろうとも、この寂しさを語り合う相手がどこにいよう。
Though the moon and breeze hold countless charms, who is there to share these lonely musings with?
暗想旧时怀抱,恨未许、与郎长见。
かつての親しき時を密かに思い返しながら、なぜあの人とずっと共に居られなかったのかと悔いるばかり。
In secret I recall our close embrace of old; oh, that fate never allowed us to remain together.

「玉女摇仙佩(ぎょくじょようせんはい)『佳景无时』」は、北宋の代表的な詞人・柳永(りゅう えい)の作品とされる詞で、晩春から初夏へと移りゆく繊細な時節を背景に、愛や別離への強い思いが描かれています。「玉女摇仙佩」という曲牌(詞の定型)は、起伏に富んだ旋律や長短のバランスが特徴で、叙情を存分に表現するのに適した形式です。本作はまさにその特徴を活かし、春が過ぎ行く哀愁と恋のもどかしさを豊かな映像美とともに描写しています。

冒頭の「佳景无时,掩重门、柳困花疏春晚。」では、せっかくの春景の盛りも終わりに近づき、しおれかけた柳とまばらになった花が、閉ざされた門の内側で静かに朽ちゆく様子が叙されます。すでにピークを過ぎた“美しい景色”に対する惜別の念と、とり残される心の空虚さが、わずか数語で的確に伝わってきます。

続く部分でも、柳絮が舞う薄暗い空間や巻き上げられた簾、縁側にかすかに漂う嘆きといった視覚・聴覚・感覚的な要素が重層的に配され、読む者に鮮明な情景を思い浮かばせます。やがて「一线柔肠誰解?但凝眸、旧夢難辨。」と、非常に内面的な訴えへと移行していき、自身のか細い恋心を理解する者がいない孤独と、過去の幸せな記憶の曖昧さへのもどかしさが切実に表出されています。

後半では、「微雨洗春山」といった自然の移ろいが再び強調され、心の冷えと季節の冷えがまるで呼応するかのような構図が浮かび上がります。「纵有千般风月,寂寞同谁言遍?」という問いは、自然がもたらす恵みや情趣でさえも、分かち合う人がいなければ空虚に響くという普遍的な嘆きを鮮烈に提示し、読み手の胸に強い余韻を残します。

柳永は宮廷や官僚社会の外でこそ人気を博し、歌妓や一般の人々に愛唱されてきた詞人です。本作のように、恋愛感情や時の流れへの切なさを率直かつ優美な言葉で表す手法は、当時としても革新的で、多くの人の心を掴みました。自然への感受性と人間の情念が一体となったこの詩の世界は、現代の読者にとっても味わい深く、人生の機微を考えさせるものと言えるでしょう。

要点

・閉ざされた門やしおれた柳が、春の終焉と喪失感を象徴
・視覚・聴覚・感触を総動員した情景描写が、もどかしい恋心と呼応
・季節の移り変わりが心の冷えを増幅し、孤独を際立たせる
・「誰と分かち合えるのか」という問いが、共感を呼ぶ普遍的な寂しさを体現
・柳永の民間人気を支えた、官能的かつ繊細な叙情表現を堪能できる

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